佐藤良久・植崎紳矢・洲浜拓志・築添徹也・筒井知人・中島美樹・丸山純平氏の著書『相続不動産のことがよくわかる本』より一部を抜粋・再編集し、相続不動産と所有者不明土地について見ていきます。
知らぬ間に相続した土地が知らぬ間に利用されている?相続不動産と「所有者不明土地」の実態 (※写真はイメージです/PIXTA)

日本の所有者不明土地は「九州の面積を超える」深刻

空き家問題と共に取り沙汰されるのが、所有者不明土地の問題です。

 

平成28(2016)年度に国土交通省が実施した地籍調査における土地所有者などに関する調査を活用した推計によると、所有者不明の土地(不動産の登記簿謄本などの調査をしても所有者が判明しない、または所有者が判明しても連絡がつかない土地)が占める割合は、全国で20.3%にも及び、土地の面積では、約410万haに相当します。

 

これは、九州の土地面積368万haを超える広さです。所有者不明土地が増加していることを鑑み、令和元(2019)年6月1日、「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」が施行されました。

 

これにより、一定の手続きを経て、所有者不明土地への立入り、障害物の伐採などが認められ、さらには、都道府県知事の判断で、道路や公園、教養文化施設などに利用することに限って、最長10年の土地使用権を設定することが可能になりました。

 

加えて、法務局の登記官が所有者の死亡後長期期間にわたり相続登記がされていない土地について、亡くなった方の相続人らを調査したうえで、職権で長期間相続登記未了である旨などを登記に付記し、法定相続人らに登記手続を直接促すなどの不動産登記法の特例が設けられました。

 

相続人にとっては、知らぬ間に相続した土地が、知らぬ間に利用される・相続登記されてしまう訳です。

相続不動産に関わる登記

そもそもなぜ所有者不明土地が増加しているのか、その要因としては、所有者が亡くなったあとの相続登記が義務ではないという点があげられます。

 

義務でないのであれば、わざわざお金をかけて相続登記をしないでもいいかと放置をした結果、所有者の相続人が亡くなり、またその次の代が亡くなり、相続人が増えてしまう、もしくは関係性が希薄な親族の連絡先がわからず、お手あげ状態になってしまうのです。

 

このような状態を防ぐため、相続登記を義務化する動きがあり、令和3(2021)年4月、所有者不明土地問題の解消に向けた民法や不動産登記法の改正案が国会にて可決、成立し、2024年に施行される予定です。

 

「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案」によると、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければ、10万円以下の過料に処すとしており、遺産分割協議が長期化し、3年以内に相続登記ができない場合には、相続人であることを申し出る制度(相続人申告登記【仮称】)が創設される予定です。

 

さらには、所有者不明土地が増加しているもう1つの要因である、住所や氏名の変更登記も義務化され、こちらは変更があった日から2年以内に変更登記をしなければ5万円以下の過料に処するとされています。

 

相続登記の義務化が現実的になり、施行前であっても、相続登記の件数は増えていくでしょう。一方で、相続登記が放置されるおそれのある土地に対応するため,相続登記の登録免許税の免税措置も設けられています。

 

 

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佐藤良久

GSRコンサルティング株式会社 代表取締役。不動産売買仲介300件以上。相続相談対応1,000件以上の実績あり。現在は複数の会社を経営しながら全国で相続や不動産のコンサルティング活動を行っている。