本記事では、ニッセイ基礎研究所の天野 馨南子氏が、過去の人口構造イメージを引きずったままの「中高年化社会」が持つアンコンシャスバイアスが、少子化問題に大きな影を落としかねない点を解説。さらに9月に公表された「第16回出生動向基本調査」の独身者調査の分析結果をもとに、人口マイノリティである若い世代の理想の結婚像が、人口マジョリティである中高年世代が描く理想の結婚像とあまりにも大きく乖離している姿を明示していく。
激変した「ニッポンの理想の家族」…第16回出生動向基本調査「独身者調査」分析/ニッポンの世代間格差を正確に知る (写真はイメージです/PIXTA)

4―中高年化社会によるシルバー民主主義が生み出す問題とは

シルバー民主主義は、少子高齢化が加速化する社会において、中高年世代が人口マジョリティ化し、中高年世代にとって都合の良い(すなわちマイノリティである若い世代の価値観を軽視した)政策が優先される社会をいう。

 

今の日本の報道や行政の政策において、この中高年化社会によるシルバー民主主義が蔓延しているように筆者は感じている。

 

民主主義、すなわち多数決の下で何かを決める場合、超高齢社会においては世代間人口格差を反映しなければ、必ず中高年の価値観が最優先されて物事が決定されていくことになる。図表1でも示した通り、2020年の人口構造から計算すると、40歳代の1票は20歳代の1票の100/66=1.5倍の力をもっている(逆に言えば、20歳代の1票は40歳代の0.66の価値しか持たない)。

 

20歳代人口と40歳代人口がともに同じ人口割合で投票に出向いたり、ツイッターなどのSNSでの記事に「いいね」を押したりリツイート機能で拡散したとしても、人口数の勝る40歳代の価値観が社会的に「普通」「みんなが思っている」「より支持されている」との評価を受けてしまう状況に今の日本はある。このように「20歳代人口が40歳代人口の1.5倍以上の投票をしなければ多数決の下では採択されない」状況下では、若い世代が意見を主張するには、あまりに不利な社会となりかねない、いわば数の暴力になりかねない状況にあるともいえるだろう。

 

中高年の価値観が優先されることの弊害は、日本において「国難」とされる少子化がとまらないという実態に顕著に反映されている。

 

統計的に見れば婚姻は男女ともに20歳代後半(男性27歳、女性26歳)で初婚のピーク年齢を迎え、また子供の授かりのピークは第5子以降であっても30歳半ばまでである。つまり、日本の未来人口のカギは今や人口マイノリティとなっている20歳代、30歳代が握っているのである。

 

30歳代までの若年世代(4割弱)と40歳代以降の中高年世代(6割強)において、人口動態的な観点から最も大きな違いは、家族形成の起点となる「新規のカップル形成力」にある。40歳代以上の人口が新たにカップリング(婚姻)することは、統計的に見れば1割に満たない状況となる。

 

従って、少子化対策を行うにあたって、先ずは人口マイノリティである30歳代以下の希望に沿った円滑なカップル形成を支援することを重要視するべきであることは間違いない。理想のライフコース調査結果の激変ぶりが示す通り、時間が経過するにつれて、その時代を生きている人々のライフスタイルも価値観も大きく変化する。

 

今や人口マジョリティ世代となった中高年世代が先ずはその変化に気づき、そしてその事実を踏まえて今以上にマイノリティ世代に寄り添った提言を行う必要があるだろう。

 

筆者も講演等を通じて度々指摘してきたことではあるが、日本の少子化は夫婦当たりの子供の数の減少よりも、夫婦がそもそも形成されないこと(つまり、未婚化)が主因である。1970年からの半世紀で出生数が43%水準に下落するとともに、初婚同士の婚姻数も42%水準に減少しており、両者の50年のデータ時系列間の相関係数は0.9を超えている。まさに、カップル形成不全から出生不全に陥る「カップルなくして出生なし」という事態が生じている。

 

それにもかかわらず、「結婚していることが当たり前」だった中高年世代が、いまだに少子化対策として最優先に考えることは、「夫婦で子どもができないことが少子化の原因だろうから、子育て支援の優先・不妊治療の拡充をすべき」といった既婚者支援ばかりに思われる。

 

更に、「結婚するのは本人の自由だし、結婚できるのが普通なのだから、結婚支援なんてハラスメントでしょう?」といった若年世代の実態に寄り添わない無責任な発言も聞かれる。これこそがシルバー民主主義を代表するアンコンシャス・バイアスのかかった価値観そのものであろう*3

 

若い人口マイノリティ世代の価値観に寄り添えない中高年価値観至上主義社会は、必然的に次世代の家族基盤の形成不全を引き起こす。中高年の家族価値観をベースにした既婚者支援のみでは日本の家族形成の危機には十分に対応できないことを今一度、理想のライフコース調査結果を見てかみしめたい。中高年世代が当然と考えてきた「理想の結婚」価値観は今、若い世代に全否定されようとしている、という言い方をしても大げさではないだろう。

 

若年世代の価値観への無理解が、結果的には自らの老後の社会保障財源(若い世代が支払う税金)を枯渇させ、想定外の老後を送らざるを得ない社会にもつながりかねないことを、我々中高年こそが深刻に受け止めなければならない。

 

*3:20歳代、30歳代の若い男女が結婚についてどう思っているのかを筆者が埼玉県と共同で調査した結果は、今後のレポートに譲るが、我々中高年世代にとっては驚きに満ちた、若い世代の男女ほど、また男性の方が女性よりも社会における結婚応援の機運醸成を強く求める結果であった。