本記事では、ニッセイ基礎研究所の天野 馨南子氏が、過去の人口構造イメージを引きずったままの「中高年化社会」が持つアンコンシャスバイアスが、少子化問題に大きな影を落としかねない点を解説。さらに9月に公表された「第16回出生動向基本調査」の独身者調査の分析結果をもとに、人口マイノリティである若い世代の理想の結婚像が、人口マジョリティである中高年世代が描く理想の結婚像とあまりにも大きく乖離している姿を明示していく。
激変した「ニッポンの理想の家族」…第16回出生動向基本調査「独身者調査」分析/ニッポンの世代間格差を正確に知る (写真はイメージです/PIXTA)

3-2.回答者全員、雇用機会均等法施行後の両親の子供へ

図表3では、第16回調査で初めて、18歳から34歳の若い未婚(婚歴なし)男女の回答者全員が男女雇用機会均等法施行後の出生となっていることを確認した。そこで、同調査において彼ら34歳未満の若者たちが、どのようなライフコースを理想としているのかを確認したい。

 

まずは、18歳から34歳未満の未婚男性(以下、若年男性)がパートナーに望むライフコースについて尋ねた質問の回答分析結果において、1987年の第9回調査から次のような顕著な変化が発生していることが見て取れる(図表4-1)

 

【図表4-1】18歳から34歳の未婚(婚歴なし)男性がパートナーに望むライフコース(パートナーにどうあってほしいか、男性・%)

 

(1)「専業主婦コース」を望む若年男性が第9回調査の38%から第16回調査の7%へと毎年着実に減少しており、妻に経済的に頼られることを希望しない若年男性が顕著に増加している。また、子育て期に妻がいったん仕事を辞める「再就職コース」希望男性も第14回調査以降、一貫して減少しており、とりわけ前回調査(2015年)からの減少割合は大きく、3割未満となった。

 

(2)一方、子供が生まれても妻も働き続ける「両立コース」希望者は一貫して増加しており、約4割に到達。また前回調査からの増加割合も大きい。

 

初婚同士男女の婚姻統計を分析すると、婚姻届を提出した男性の7割が32歳まで、8割が34歳までとなっている。従って、18歳から34歳の未婚男女の回答結果である第16回調査での回答分析結果は、まさに日本の若年男性における結婚の理想像であるといえるだろう。

 

つまり、結婚適齢期にある男性が希望している結婚は、「親世代のように妻が夫の経済力に頼ろうとしない、また夫も妻に頼られようとしない結婚」であるといえるだろう。

 

この結婚価値観に対する世代間ギャップは明確で、現在50歳代、60歳代の男性が結婚適齢期であった35年前の第9回調査(1987年)では、当時の適齢期男性が最もパートナーに望んでいたのは「専業主婦コース」と「再就職コース」でともに4割であり、「両立コース」はわずか約1割であった。

 

このように、35年が経過するなかで、今の若者男性と35年前の若者男性では、全く異なる価値観でパートナーを求めていることがわかる。

 

次に18歳から34歳の未婚女性(以下、若年女性)の理想のライフコースに関する変化を見てみたい(図表4-2)

 

【図表4-2】18歳から34歳の未婚(婚歴なし)女性が理想とするライフコース(自分はどうありたいか、女性・%)

 

(1)「専業主婦コース」希望女性は、第9回調査の34%から大きく減少傾向にあり、第16回調査では遂に13.8%(約1割)となる。

(2)一方、子供が生まれても働き続ける「両立コース」希望女性は第9回調査以降、一貫して増えており、第15回調査で3割を超え、引き続き増加傾向にある。また、子育て期にいったん仕事を辞める「再就職コース」希望も若年男性の希望と同様に第14回調査(2010年)以降、一貫して減少しており、特に今回調査での減少幅は大きく、遂に3割未満(26.1%、約4人に1人程度)となっている。

(3) 結婚せずに働き続ける「非婚就業コース」が初めて1割を超過。

 

現在の50代・60代女性が35年前に考えていた理想とするライフコースが、「専業主婦コース」と「(子育て後に)再就職コース」がともに約3人に1人で、「両立コース」は約5人に1人であったことを考えると、こちらも男性と同様に価値観が大きく変容したことが確認できる。

 

以上、第16回調査の結果からは、人口マジョリティを占める中高年の価値観とは大きく異なり、若い男女はともに、お互いに極端に経済的に依存するような結婚生活を望んでいないことが示されている。

 

今の若者と35年前のかつての若者では、真逆のような価値観をもっていることが社会によって広く理解されないと、却って未婚化を進めるような的外れな提案をすることになりかねない状況に今の日本はあるといえるだろう。