毎年誕生月に、日本年金機構から届く「ねんきん定期便」。夫逝去後の遺族年金の支給額は、ねんきん定期便に記載のとおりと思い込んでいたAさんの事例とともに、サンモールFP事務所代表の辰田光司氏が解説します。
定年直前、会社員の夫急逝…「ねんきん定期便」を鵜呑みにしていた妻、遺族年金支給額に愕然【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

受け取れる遺族年金は、実際いくらだったのか?

さて、そんなAさんが告げられた遺族年金額はいくらだったのでしょうか? 遺族に支給される公的年金には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」がありますが、実は、この2つは支給を受けられる遺族が異なります。

 

■遺族基礎年金

子(※)のある配偶者(妻または夫)または子

※年金法上では、子は「18歳になった年度の3月31日まで(ざっくりと言いますと、高校卒業まで)の未婚の人、または20歳未満で国民年金の障害等級1級または2級の障害の状態にある人で未婚の人」をいいます。

 

■遺族厚生年金

(優先順位の高い順に)配偶者または子、父母、孫、祖父母

 

Aさんの場合は、遺族基礎年金は0円です。なぜなら、Aさんの娘はすでに20歳で支給要件に該当しないためです。これに対し、遺族厚生年金はAさんに支給されます。

「ねんきん定期便」に書いてある額が支給されないワケ

1.50歳以上の方の「ねんきん定期便」には、現在の加入条件が60歳まで継続すると仮定して計算された見込額が書かれている

 

2.遺族厚生年金の支給額は、報酬比例部分の老齢厚生年金額の4分の3となる

 

上記2つの理由から、Aさんには「ねんきん定期便」に書いてある額が支給されませんでした。

 

つまり、「ねんきん定期便」から遺族厚生年金の概算額を知るには、「報酬比例部分の老齢厚生年金の額」から「(死亡時から)60歳まで現在の条件で稼働して加算されるはずだった年金額」を引き、それを4分の3にしなければなりません。老齢厚生年金の概算額を計算するための式として、「年収×0.55%×加入年数」という式が知られておりますが、この式を使って遺族厚生年金の概算額を求めますと、

 

1,320,000円―(8,000,000円(年収)×0.55%×5年(55~60歳))

=1,100,000円

1,100,000円×3/4=825,000円

※便宜上、1年未満の月数は考慮せず計算しています。

 

ということになります。

 

ただし、遺族基礎年金を受け取れない、または受け取れなくなった妻に対しては、65歳になるまでのあいだ、「中高齢寡婦加算」として年額583,400円(令和4年度の額)が、遺族厚生年金に加算されます。この「中高齢寡婦加算」の支給要件は、以下のとおりです。

 

【夫が死亡時に厚生年金に加入している場合】

(1)子のない妻の場合は、夫死亡時の妻の年齢が40歳以上65歳未満であること

(2)子のある妻の場合は、その子が18歳到達年度の末日(その子が障害等級の1級または2級の状態にある場合は20歳に達した日)の時点で、妻の年齢が40歳以上65歳未満であること

 

【夫が死亡時に厚生年金に加入していない場合】

夫の死亡日までの厚生年金の通算加入期間が20年以上あること

 

※遺族基礎年金が受給される場合には支給停止となります。

 

Aさんは「年金法上の子」はいませんので【夫が死亡時に厚生年金に加入している場合】の(1)に該当し、年額583,400円(令和4年度の額)が遺族厚生年金に上乗せされます。したがって、Aさんに支給される遺族年金は、825,000円+583,400円=約140万円(便宜上、1,000円以下の額を切捨て)ということになります。Aさんが考えていた年額210万円とは約70万円もの大きな差があり、Aさんが驚いたのも無理はありません。仮にAさんが老齢年金を65歳から受給するとして、それまでの約10年間でも、約700万円の差が生じることになります。

 

また、Aさんは「中高齢寡婦加算」が上乗せされましたが、支給要件に該当しない場合(たとえば、夫が死亡時に厚生年金に加入しておらず、かつ通算加入期間が20年未満であった場合)には、さらに大きな差がつく可能性もあります。