「変動」「固定」それぞれの特徴と、選ぶうえで重要な前提条件
① 変動金利
低金利が続く昨今において、各銀行が魅力的な優遇金利でしのぎを削っているのがこの変動金利になる。個別住宅ローン商品についてはここでは言及しないが、保証料や手数料を考えなければ0.01%でも低い金利を選ぶべきであるのは間違いない。
多くの場合35年という長期での金利負担になるので、仮に5000万円の住宅ローンを35年間で返済する場合、総返済額は0.01%の差が10万円近い利息負担の差となって表れる。
そして、次に大事なのが、その金利は店頭金利から大きく「優遇」されているわけなので、その権利がいつまで続くか、ということになる。直近の変動金利のほとんどは全期間優遇なので、そのメリットは大きい(すでに変動金利で住宅ローンを借りている方は優遇期間が全期間になっているかチェックすることをおすすめする)。
なぜならば優遇金利の基準となる店頭金利がこの25年ほとんど動いていないため、大きな経済的・地政学的インパクトがない限り、店頭金利が急上昇する可能性が高いとはいえない状況だからだ。
FPは顧客に「儲けさせる」より「資産を守る」というディフェンシブな役割が重要であるにも関わらず、金利上昇リスクのある変動金利を否定しない理由は、他にもある。
もちろん店頭金利が上昇するような状況になる可能性はあるが、起きてしまった場合の対策をする、つまりリスクマネジメントができていれば過剰に不安になる必要がない、というスタンスであるからだ。
金利上昇、そしてインフレに対し有利に働く金融資産を保有していれば金利上昇局面では負債の利息負担上昇を、額面上の資産額上昇で軽減することもできる。また低金利の恩恵を受けた分で、しっかりと資産形成ができていれば、その資産で繰り上げ返済をして金利上昇のデメリットを軽減することも可能となる。
ただし、率直にいうと、このリスクマネジメントができていない状況で、目先の返済額だけを見て、変動金利を安易に選ぶ方が多いのを憂慮しているのは述べておきたい。
② 短期間固定(1年~10年)
1年~10年の固定金利は金融機関によっては変動金利よりも金利は低いので、もちろんその固定期間内であれば金利負担も低く、返済額のなかに含まれる利息分が少なく、元本が早く減ることも考えればメリットは大きい。
ただし、固定期間が終わったあとがやはり課題になる。もし金利の優遇期間が全期間優遇でなければ、固定期間終了後に店頭金利の大幅な上昇が無くても、優遇金利の見直しがあり、想定以上に金利が上がってしまう可能性もあるので、注意が必要になる。
ちなみに、顧客からの相談での肌感覚だが、銀行はこの短期間固定を勧めてくることが多いように感じる。銀行のメリットだけを考えれば、短期間固定のほうが、銀行の都合で優遇幅の見直しをすることで、利息収入を上げることができることも考えれば頷ける。
逆に顧客からすれば、変動金利の全期間優遇と比較して、店頭金利上昇だけでなく優遇幅縮小(金利上昇)のダブルリスクがある、ということになる。 つまり、住宅ローン減税のメリットだけ享受して、その後一括繰り上げ返済などを検討している場合や、そもそもの借入れ期間が短い(10年~25年)場合以外は、あまり推奨はできない。
③ 長期間固定(20年~30年・全期間固定)
全期間固定でなくても20年以上の固定期間を同じくくりにしたのは、固定期間終了後の残債と金利負担に関係する。長期間のローン返済において、スタート時は完済までの期間が長いため、毎月の返済額にイメージ以上に高い割合で利息が含まれる。
たとえば5000万円を35年返済、1.0%の金利でローンを組んだ場合、毎月の返済額141,142円に占める利息は41,666円だが、25年後は13,531円まで大きく下がる。
さらにここまで返済が進んでいると、残債も1,611万円まで減り、返済期間も10年となれば、仮に金利が3%に上がったとしても、毎月の返済額は155,559円と、さほど大きな上昇にはならない (逆に返済スタートから10年後に3%に上昇した場合は返済期間も長く、残債も多いので、返済は毎月177,592円となる)。
全期間固定も含め、長期間の固定金利のメリットは金利上昇のリスクが非常に低い点であることは間違いない。ただし、変動金利や短期間固定と比較して(金利上昇が無ければ)利息負担が多いのも事実なので、一定以上の負担をしてでも精神的な「安心」を買うのであれば、合理的ともいえる。
ここで述べたように資産運用や保険・積立と同様、住宅ローンも金利や期間ごとにメリットとデメリットがある。
当然、家族構成や年齢・資産額(とその種類)・収入(現在と未来)を総合的に分析しなければ、何が一番「合っているか」はお話を聞かない限りは断言できない。(=分析もせず断言する銀行員や不動産会社の営業パーソンやFPは私とはスタンスが合わない。)
ただ、どちらにしても、リスクを負うのは銀行でもFPでもなく、借主である。理解したり考えたり、相談するのは一定のエネルギーが必要だが、長期的な時間軸で人生をとらえ、せめて、ここで述べた金利の考え方を理解しておくのは、とても重要なステップであると断言しておく。
中村 達矢
FP Office
代表取締役