(※写真はイメージです/PIXTA)

認知症は、「一度発症したらお手上げの病気」ではありません。早期に治療を始めることで進行を遅らせることが可能です。三浦メディカルクリニック院長・井上哲兵医師が、早期発見のための「サイン」を解説します。

認知症は早期発見・早期治療によって進行を遅くできる

ひと昔前までは脳が老化する前に身体的な寿命を迎えていましたが、医療が発達し寿命が急激に延びた昨今に問題となっているのが、認知症患者の増加です。認知症はアルツハイマー型認知症、脳血管性認知症やレビー小体型認知症など様々なものが原因で発症してきます。最も多いのはアルツハイマー型認知症で、認知症全体の67.6%を占めると報告されています。

 

アルツハイマー型認知症は進行性の病気で治らないから病院に行っても仕方がないと考えている人が多いようですが、身体の病気と同じように早期に発見し、生活習慣を整えたり、服薬したりすることで、改善はないにしても、進行がゆっくりになることが分かっています。

 

今回ご紹介するのは、認知症のよくある症状です。もし複数個当てはまるようであれば、かかりつけの医療機関や最寄りの医療機関にご相談ください(なお、下記症状は診断基準ではありませんのでご注意ください)。

「認知症」が始まっているかもしれないサイン

【①記憶力・判断力・理解力の低下】

まずは記憶力・判断力・理解力の低下についてです。たとえば、同じことを繰り返し発言するようになったり、内容がまとまらなくなったりすることで、会話が成立しなくなるのが特徴です。

 

また、買い物に行ったときに釣り銭の計算ができなくなったり、同じものを何度も買ってきたりします。家の中の片付けができなくなり、散らかっている状態になることもあります。そして、味付けの加減が分からなくなり味付けが極端に濃くなっていたり、薄くなったりすることもあります。バックで駐車する際に車の動きが分からなくなり、後ろ側だけよくぶつけるなどもあります。

 

これらは、普段からコミュニケーションをしっかり取ることで早めに察知できる症状の一つです。日常生活での会話を心がけていただくことが大事です。

 

【②物忘れが多くなる】

認知症の初期症状の物忘れとは、昨日の食事の内容が思い出せないということももちろんですが、食事を食べたこと自体を忘れてしまうという症状です。食事をした後に、私だけ食事を出してもらえてないと訴えたり、食事を取ったのに1時間もしないうちにまた食事の準備をしていたりなどがあります。

 

また、お財布・衣類・通帳などの置き忘れ、しまい忘れが増え、探しものをすることが増えたり、人によっては財布がないから盗まれた!と訴えたりするようになります。

 

【③時間・場所・状況が分からなくなる】

時間感覚のズレは認知症の症状として大事なポイントです。あまりにもズレてくると昼夜逆転しまうこともあります。そして、それは年単位のズレや季節のズレになってくることも。現在の年・月を昭和X年Y月といったり、夏なのに冬と答えたりすることがあります。場合によっては、分からないことを誤魔化すために会話自体をすり替えて話を無理やり続けようとすることがあります。

 

また、近所に買い物に行ったはいいが、帰り道が分からなくなり迷子になってしまうというのも重要なサインです。

 

【④性格変化・思考変化】

性格変化や思考変化も大事です。穏やかな人だったのに何だか最近怒りっぽくなった。せっかちだった人が何だか最近ぼーっとしている。明らかに間違った考えであるにもかかわらず、他人からの修正・訂正に聞く耳を持たず怒り出す。ルールやマナーを守れなくなってしまった。ちょっとしたことでも思い通りにならないと激しい暴言を吐いてしまうなどなど。年齢で頑固になっているのかもと思っているだけだと、初期症状を見逃してしまいます。

 

【⑤身だしなみ】

身だしなみはかなり顕著に出ることがあります。最近、身だしなみが整えられなくなったりはしていませんか? 同じ服でずっと過ごしている、お風呂に入らなくなった、食べこぼしが服についても気にしない、あるいは気付いていないなどがあれば要注意です。

 

これらは、認知症の症状のほんの一部で、人によっては、幻聴・幻視が出てくる人、多動・徘徊を繰り返す人、転倒を繰り返す人まで様々です。また、改善する認知症である「正常圧水頭症(せいじょうあつすいとうしょう)」という病気の可能性もあるため、気になったら早めに相談することが何よりも大事です。

もしかして認知症かも?と思ったら

認知症初期の場合は、直球で専門の病院(精神科や脳神経内科)に行こうと言っても難しいかもしれません。まずはかかりつけや近所の内科でも良いと思いますので、気軽に相談することが大切です。かかりつけ医に相談して、専門病院への紹介をしてもらうとスムーズに進むことが多いです。

 

当院では、専門病院への受診を拒否されている患者さんのご家族からの相談も多く、事前に電話で軽く打ち合わせをして、本人とご家族の関係がギクシャクしないように、本人の自尊心を傷つけないように、普段の診療の中で一連の流れとして認知症検査を行うように診療しています。受診の際に、本人には、「フラつきが少し目立ってきて、今話題の隠れ脳梗塞が心配だから受診しよう」と言って連れて来ていただくようにしています。

 

認知症と診断されたら、薬物療法と非薬物療法の2つの治療を行っていくことになります。薬物療法は医師の指示の下に継続的な内服治療を行うことになります。一方で非薬物療法は、家事や手芸、園芸など日常の動作を通して認知症の進行を予防する作業療法や、歌を歌うなどで脳を刺激する音楽療法、ラジオ体操やウォーキングなどの程よい無理のない範囲の運動療法などが有効です。クロスワードパズルやナンプレなども脳への刺激があって有効と言われています。しかし、何と言っても家族とのコミュニケーションが非薬物療法においては一番大事です。

 

家族が、認知症によって変わっていく患者さんの姿にショックを受ける場合もあるかと思います。しかし認知症を患う本人が誰よりも辛いことを知っておく必要があります。

 

何度も同じことを聞かれる、昼夜逆転して夜に起こされる、徘徊して外に出て行ってしまうなど困った言動によって、つい強く言ってしまうことがあるかもしれませんが、イライラして怒ったり、否定したりするのは、ご家族の精神面にとっても、患者さんにとっても良いことではありません。話していることがどんな内容であっても否定せずに受け入れてあげるように心がけましょう。認知症について正しく理解し、家族ぐるみで治療を続けていくことが何よりも大切です。

 

しかし、この病気は綺麗ごとだけでは片付けられないのも十分理解できます。認知症患者さんを抱える家族として、辛くなったら、できれば辛くなりそうになった時点で公的機関(市役所の福祉課や地域包括センター)やかかりつけ医に相談することが大切です。認知症は決して恥ずかしい病気ではありません。人間の寿命が伸びれば伸びるほど、誰にでも起きうる病気なのです。

 

認知症の患者さんがご家庭にいて、ご家族が辛くなってしまうのも恥ずかしいことではありません。ご家族内で抱え込んで悩むよりも、相談してどのような公的サポートが受けられるのかを教えてもらいましょう。

 

認知症は早く見つけ、早く治療することが大事です。そして進行してきてしまったら、できる限り周囲のサポートを受けながら、患者さんを皆で、地域で支えていくようにしましょう。

 

 

井上 哲兵

三浦メディカルクリニック 院長

 

【関連記事】

■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】

 

■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」

 

■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ

 

■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】

 

■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】