(※写真はイメージです/PIXTA)

最近もの忘れが多くなった、集中力や気力が低下した、皮膚のガサつきや抜け毛が気になる…そんな人は、もしかしたら「亜鉛」が不足しているのかもしれません。“メンタル産業医学”の創設者として知られる櫻澤博文医師(合同会社パラゴン代表社員)が、「亜鉛不足」について解説します。

こんな「食生活」や「症状」は亜鉛不足のサインかも

以下の食生活の変化、増えていませんでしょうか?

 

□“ながら食い”のできるパンやファストフードをよく食べる

□毎日飲酒するようになった、もしくは強いお酒をよく飲むようになった

□スーパーで食品を選ぶとき、そういえばワンパターンになっている

 

また、こんな事柄(症状・特徴)に身に覚えはありませんか?

 

□もの忘れしやすくなった

□味が薄く感じられ、つい濃い口にしてしまう

□皮膚がガサつきやすくなった、髪の毛が抜けやすくなった

□風邪を引きやすくなった、虫刺されや擦り傷が膿みやすくなった

□食欲低下や胃もたれ、腹部膨満感、下痢といった消化器症状が出やすくなった

□女性であれば月経不順、男性であれば精力減退している

□そういえば体重、血糖値、コレステロール値、血圧といった生活習慣病の値が増大した

 

これらは亜鉛不足で引き起こされている可能性があります。

なぜ、亜鉛不足になってしまうのか?

背景理由は主に以下です。

 

1. コロナ禍に伴う行動制限

2. 円安に伴う輸入食材・肥料の高騰&インフレに伴う食品価格上昇

3. スーパー等での販売形式の変化

4. マスク装用に対する同質圧力

 

それぞれ見ていきましょう。

 

【1. コロナ禍に伴う行動制限】

新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が毎年のように発令され、その都度、外出自粛を強いられる…2020年からそんな生活が始まって、3年目を迎えています。新型コロナウイルスの感染が再拡大し、厚生労働省感染症対策分科会も7月11日に第7波に入ったという認識を示しました。行動制限を受けて、知らず知らずのうちに偏った食事摂取に陥る人が出てきています。

 

【2. 円安に伴う輸入食材・肥料、原油の高騰&インフレに伴う食品価格上昇】

物価高によって多様性ある食事摂取に制限が加わっています。そもそも円安によって輸入する小麦や大豆、畜産物、魚介類といった食材が高騰しています。加えてロシアによるウクライナ侵攻で原油や肥料も高騰しています。それで値上がりしたのが食材や食品。家計への影響を防止するために、買う食材や食品を絞っての防衛策を講じていませんでしょうか。

 

【3. スーパー等での販売形式の変化】

スーパーで食品の品揃えが変化していたことに、気が付いていませんでしょうか。いわゆる“定番”に絞っています。スーパー側はいわゆる「三密」を避けるために、ゆっくりかつじっくりと商品を見定めるより、短時間で購入できるようにと、いわゆる馴染みの、売れ筋商品を陳列しています。つまりは多様性より恒常性。日常的に食事が偏りやすい状況が続いてもう3年目です。

 

【4. マスク装用に対する同質圧力】

コロナ対策にマスク装用といった抑圧的な日常が続いています。自ら望んで装着しているわけではありません。イヤイヤながらの、つまり強要されての行動を執っていると、いわゆる“ストレスホルモン”といわれる「ステロイド」(副腎皮質ホルモンの一種)が消費され続けます。副腎はストレスと対峙する臓器ですが、慢性的なストレスが加わり続けると欠乏しやすくなる成分が「亜鉛」なのです。

体内における亜鉛の働き

①神経伝達物質の製造

亜鉛は神経と神経との間において、情報のやり取りをする「神経伝達物質」を作る働きがあります。亜鉛不足で副腎皮質ホルモンの産生が低下すると、ストレスに弱くなるだけではなく、波及効果として、神経伝達物質の作成量が低下することで、神経活動が鈍くなり、集中力や気力の低下や感情の起伏が激しくなります。

 

②有害物質排泄作用

亜鉛にはまた、鉛や水銀といった有害金属を体外に排出する働きもあります。不足すると鉛や水銀は体内に蓄積され、正常な身体活動を鈍らせてしまいます。つまり、加えて有害金属が体内に蓄積しやすくなることより神経活動の低下から疲労は蓄積し、体力は減弱してしまいます。

メタボ、高血圧、喫煙等も亜鉛の消耗を加速させる一因

コロナ禍に伴う偏食が、亜鉛の摂取量を減少させることがわかりました。加えて健康診断で把握されている、あの「メタボ」状態…単純に体重が増加するだけでも亜鉛の消費量が増加することが知られています。いわゆる「メタボ状態」は、四六時中(医学的には慢性的にといいます)血管内皮細胞に対してコールタール混じりのヘドロのような重油をぶちまけるようなもの。つまりはストレスを与えます。ストレスが加わると亜鉛が消費されることはお伝えした通り。

 

高血圧になると、四六時中、血管という風船の中に、ヘドロ入り重油を入れて膨らませるようなもの。糖尿病になると、水あめをストローの中に流し込むようなもの。

 

喫煙すると、呼吸器系といわれる咽頭細胞や気管支、肺胞に排気ガスや下水の汚泥を塗り続けるようなものです。

 

以上の、いわゆる生活習慣病それぞれが、身体を構成する細胞、組織、臓器、全身へ四六時中、高いストレスを与え続けます。その影響で副腎皮質はステロイドホルモンという、ストレスを緩和する作用を持つ副腎皮質ホルモンを産生するのですが、食事が偏っていると、産生に必要な亜鉛が不足してしまい、ダブルの悪化でいよいよストレスを解消できなくなってしまいます。

体内における亜鉛の分布、作用について

亜鉛は体内に約2000mg存在し、主に骨格筋、骨・骨髄、前立腺、皮膚、肝臓、脳、腎臓などにある成分です。鉄の次に多い微量ミネラルとなっています。体内で作り出すことができないため、当然、食事から摂取する必要があります。

 

亜鉛はたんぱく質でできている、数百もの酵素の構成要素として、さまざまな生体内の反応に関与しています。コラーゲンを含めアミノ酸からのたんぱく質の再合成、DNAの合成にも関与しています。

 

胎児や乳児の発育や生命維持に非常に重要な役割を果たしているほか、骨成長や肝臓、腎臓、インシュリンを作るすい臓、精子を作っている睾丸など、「新陳代謝」というように、新しい細胞が作られる組織や器官では必須のミネラルです。新陳代謝というと、エネルギー代謝や免疫反応にも関与します。

 

また、体の細胞にダメージを与える活性酸素を除去する酵素の構成成分であるほか、味覚を感じる味蕾(みらい)細胞にも関与しているように、体内のさまざまな生理活性活動を円滑にし、健康を保全する役目を持っています。

 

①神経機能の維持

記憶力や情報の処理には、神経と神経の間をつなぐ、神経伝達物質が過不足なく作られなくてはいけません。先ほども述べたとおり、この神経伝達物質を合成する際に必要なのが亜鉛です。

 

亜鉛が体内に十分にあることで、神経と神経の間の情報処理が円滑になり、結果として精神機能や感情が安定することになります。

 

②生殖機能の改善

男性の生殖細胞である精子の形成に必要とされます。また妊娠の維持、胎児や小児の成長・発育にも必要とされます。

 

③味覚を筆頭とした感覚の維持

我々が味を感じるのは、舌に「味蕾」という感覚受容器があるからで、その中にある味細胞は新陳代謝が盛んで、材料となる亜鉛を常に必要としています。ほかにも臭覚や聴覚の維持にも必要とされています。

 

④抗酸化作用

亜鉛はビタミンAが持つ抗酸化作用を高め、悪玉コレステロールといった過酸化脂質の害から細胞を守ってくれます。

 

⑤免疫力の向上

前述のビタミンAには、皮膚や粘膜を丈夫にする作用があります(お手元のハンドクリームにも入っているかも!?)。そのビタミンAを皮膚や粘膜内に留置させ、抗酸化作用を発揮しやすくする作用を持ちます。従って、粘膜でおおわれている鼻腔内や口腔内での炎症作用を緩和する働きがあり、鼻水・鼻づまり、のどの痛みなどの炎症を伴う風邪の諸症状を緩和します。皮膚でいうならば、切り傷、擦り傷といった皮膚の炎症から皮膚を保護し回復を促す効果があります。

 

⑥新陳代謝の維持・促進効果<髪や肌の健やかさを維持>

亜鉛はたんぱく質代謝を促進する作用があります。皮膚や髪の毛もたんぱく質で構成されています。ストレスを受けると皮膚がカサカサ、ガサガサになったり、脱毛したりするのは、亜鉛不足によるたんぱく質合成の低下が原因です。高ストレス時には、亜鉛を積極的に摂取することが美肌や美髪を維持する秘訣になります。

 

⑦糖尿病予防

すい臓でのインシュリンの製造に必要です。

亜鉛を補うには?

1日の摂取の推奨量は18~69歳の男性で10mg、70歳以上の男性で9mg、18~69歳の女性で8mg、70歳以上女性では7mgとなっています。

 

亜鉛を含んだサプリも売られていますが、おすすめしておりません。

 

その理由ですが、亜鉛の過剰摂取は銅欠乏、貧血、胃の不調など様々な健康被害が生じることが知られているからです。亜鉛の耐容上限量は18~29歳の男性で40mg、30~69歳の男性で45mg、70歳以上の男性で40mg、18歳以上の女性で35mgと設定されています(※参考:厚生労働省『日本人の食事摂取基準(2015年版)』)。

 

サプリの代わりに、亜鉛を多く含む食品を以下より確認の上、食品の多様性を意識して積極的に摂取することを推奨します。

 

<亜鉛を多く含む食品>

100g当たりの含有量が多く、スーパーで買えるような馴染みある食材は以下です。

 

かき(養殖/水煮)…14.5mg

ボラ からすみ…9.3g

ビーフジャーキー8.8mg

まさば さば節…8.4mg

炒ったかぼちゃ…7.7mg

牛ひき肉(焼いた状態)…7.6mg

牛もも肉(ゆでた状態)…7.5mg

パルメザンチーズ…7.3mg

かたくちいわし 煮干し…7.2mg

ココア…7.0mg

 

魚介類や肉類に比較的多く含まれていることが理解できます。

 

 

櫻澤 博文

医師

労働衛生コンサルタント

日本産業衛生学会指導医

合同会社パラゴン 代表社員

 

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※本記事は、オンライン診療対応クリニック/病院の検索サイト『イシャチョク』掲載の記事を転載したものです。