人生に2度ある「大幅な収入減」に対応できるか?
そのような状況下、苦境に陥っているのが、アベノミクス時代の超低金利、乗り遅れてはいけないと、少々無理をして借入を行った人たち。マイホームを実現した当初から、返済負担に四苦八苦している人たちです。
住宅金融支援機構では、年収400万円以上の場合、返済負担率(税込年収に占める住宅ローンの年間返済額の割合)は35%としています。つまり年収400万円であれば、年間140万円、月々11.6万円程度の返済が上限だということです。年収400万円であれば、賞与などを考えると、月収は26万円、手取りにすると20万円程度。これで月々11.6万円のローン返済を行うというのは、なかなか難しいでしょう。上限いっぱいで借入を行うのは、少々現実的ではないように思えます。
同機構の調査によると、変動/固定関わらず、返済負担率「15~20%」がボリュームゾーン。しかし返済負担率30%超えが、全金利タイプで1割を超えています。
【返済負担率の分布】
■返済負担率10%未満
変動型10.6%、固定期間選択型8.8%、全期間固定型6.4%
■返済負担率10~15%以内
変動型19.8%、固定期間選択型19.9%、全期間固定型14.5%
■返済負担率15~20%以内
変動型26.7%、固定期間選択型25.7%、全期間固定型23.8%
■返済負担率20~25%以内
変動型20.3%、固定期間選択型19.3%、全期間固定型22.7%
■返済負担率25~30%以内
変動型11.2%、固定期間選択型13.5%、全期間固定型18.6%
■返済負担率30%以上
変動型11.3%、固定期間選択型12.8%、全期間固定型14.0%
出所:住宅金融支援機構『住宅ローン利用者の実態調査』(2021年10月調査)より
今回のコロナ禍のように、突然の給与減は予測できないもの。だからこそ、住宅ローンを検討する際は、そもそも「なんとかやっていける」とギリギリの借入は避けたほうがいいのは、いうまでもありません。
さらに予測できる給与減についても、きちんと考えておきたいもの。会社員が大きく給与を減らすのは2回。「定年」と「完全リタイア」のタイミングです。
厚生労働省『令和3年賃金構造基本統計調査』によると、大卒男性会社員の年収は、年齢が上がるにつれて上昇。50代前半がピークとなりますが、50代後半でも同水準をキープします。しかし多くの人が定年を迎え、再雇用などで働き続ける60代前半ではそれまでの給与から3割ほど減少します。
【大卒男性会社員の年収推移】
20~24歳:341万5,500円
25~29歳:451万8,400円
30~34歳:533万5,200円
35~39歳:625万2,200円
40~44歳:684万4,800円
45~49歳:748万0,400円
50~54歳:841万8,800円
55~59歳:833万4,000円
60~64歳:649万7,600円
65~69歳:593万3,700円
70歳:601万6,300円
出所:厚生労働省『令和3年賃金構造基本統計調査』
さらに完全に仕事をやめ、年金生活に入ったとしましょう。厚生労働省によると、元会社員の平均年金受取額は、月に15万円程度。年収にして180万円程度になります。65歳で完全リタイアしたとなると、収入はそれまでの3割程度になる計算です。
実際に「定年」や「完全リタイア」のタイミングでローン破綻を迎えるケースは増加傾向にあります。それは結婚年齢の上昇。それにより第1子誕生、住宅購入といったライフステージの年齢が、全体的に後ろ倒しになっているのです。それまでは定年前に返済が終わっていた住宅ローンが、現在は定年後もリタイア後も続く、というのは珍しくありません。
そこにライフステージの変化による収入減が直撃。60代や70代にして住宅ローン破綻を迎えるというわけです。
コロナ禍のような未曾有の危機を予測することは難しいですが、人生において訪れる2回の大幅な収入減は予測できるもの。これらを考慮したうえで、無理のない返済プランを検討することが、老後の住宅ローン破綻を回避するための最善の方法だといえるでしょう。