(※写真はイメージです/PIXTA)

「八重歯」は、日本では可愛らしい印象を持たれていますが、国際的には矯正が必要な歯並びと認識されています。八重歯を引き起こす原因とは何か、なぜ矯正が必要なのか。大阪中之島デンタルクリニック院長・山本彰美氏が解説します。

日本では「八重歯=チャームポイント」だったが…

八重歯を可愛いとみなす風潮は、日本には根強く残っています。

 

国際的には、ドラキュラ・トゥースと呼ばれていることからも、それは明らかに問題ある歯並びとされます。よって、今後は八重歯を改善(解消)しようとする考え方は、大多数になります。

 

八重歯とは、いわゆる犬歯(糸切り歯)が、隣の歯よりも歯並びの外側に位置することです。

 

犬歯は先端が尖った状態の形状なので、飛び出ることにより、いっそう目立ちます。逆に特徴ある歯だけに、安易に抜歯することはおすすめできません。

なぜ日本人には八重歯が多いのか?

日本人に八重歯が多い原因としては、いくつかあります。

 

【原因①顎の骨の成長不足】

日本人は骨格的に、欧米人よりも華奢です。骨の成長発育、発達にはよく噛んで食べることが大切と言われています。顎骨の発達そのものが、歯がきれいに並ぶ顎の大きさにならないことが、八重歯を引き起こします。

 

つまり八重歯は、顎の大きさと、歯の大きさのアンバランスにより、起こるのです。そして顎の骨の発達不良(不足)が最も大きな要因です。

 

それに対して、顎骨の大きさは、習慣や環境によって変化します。

 

たとえば、最近では柔らかい食べ物が好まれるため、噛むという行為が(習慣)が不十分なことが多く見受けられます。

 

昔に比べて、食生活が豊かになり、偏食も多く見受けられ、そのために子供が食べ残すことが多いと、つい食べやすいものばかりのメニューになりがちです。学校給食でさえも、柔らかい食感のパンや、お粥のようなご飯などが好まれているということも耳にしますが、これは決して望ましいことではありません。

 

また、昔に比べて、外での運動の習慣が減少していることにより、食欲減退により、食事の時間が減少し、噛むという行為が不足していることも要因として考えられます。

 

【原因②歯そのものが大きい】

歯の大きさは、生まれてからでは、自分自身や親の努力で変えることはできません。

 

顎骨が正常な大きさであるにもかかわらず歯の大きさが大きすぎるという要因に対しては、矯正治療の際に歯の大きさを細くする(ストリッピング)方法や、場合によっては、歯の数を減らす(抜歯する)ことにより、歯が並ぶスペースを確保することが必要になることもあります。

 

【原因③乳歯から永久歯に生え替わるタイミングの不良】

犬歯が生える前に存在している、乳歯の犬歯(乳犬歯)が、生え替わりのタイミングが悪く、遅くまで乳犬歯が残存してしまうと、永久歯の犬歯が正しい位置に並ぶことができなくなることがあります。ほとんどが歯並びの外側にずれた位置に生えてしまいます。つまり八重歯になってしまうのです。

 

また早期に抜けてしまった場合も、本来犬歯が生えるべきスペースに、隣の歯が寄ってしまうことによって、八重歯となることもあります。

八重歯は、外見以上に「人体へのデメリット」が大きい

八重歯の場合は、見た目だけを気にされる場合が多いですが、実はもっと大きな問題があります。

 

顎の大きさが十分でない場合、実は大きな問題があります。顎が小さいことによっておこる弊害は、呼吸への悪影響です。上顎が小さい人の多くは、鼻呼吸が不十分なことが多いです。

 

いわゆる口呼吸になってしまうのです。近年多く耳にする、睡眠時無呼吸症候群は、上顎の狭小な人ばかりです。呼吸は、人間にとっては一生24時間続きます。不完全な呼吸が長年にわたって続くことは、人体に対しては大きなデメリットです。

 

成人になって成長が終わってしまってからでは、呼吸を改善するためには、顎を広げる手術が必要になりますが、学童期に上顎骨の発育不足が予想される場合は、審美性のみでなく成長を促す矯正を考えていくことが重要です。

 

学校歯科検診において、上顎骨の発育状態を見た場合、ほとんどの学童が、顎の成長を促す必要があることが多いのが実情なのです。正常な呼吸は、就寝時の眠りの質を上げますし、その結果昼間の集中力などを改善することにも繋がります。

 

口呼吸では、口の中が乾燥しやすくなり、そのためむし歯や歯周病も悪化しやすく、食事の咀嚼(そしゃく)能率も低下するだけでなく、口の中の細菌も増加し、消化器系・呼吸器系への負担も増大します。

 

八重歯はけっして可愛いものではなく、健康を左右する大きな目安なのです。

 

 

山本 彰美

大阪中之島デンタルクリニック 院長