経済的な自立を実現させて、仕事を早期に退職する「FIRE」が注目されたことで、若い世代においても資産形成の意識が高まっています。そのようななか、働きながら資産形成を実現する手段として不動産投資を選択する人も少なくありません。投資にあたりほとんどの人はローンを組みますが、頭を悩ませるのが「頭金をいくらいれるか」。なかには「頭金ゼロ」、つまり「全額ローン」で物件購入を考えるケースも。そこにリスクはないのでしょうか。みていきましょう。
FIREに憧れて…「全額ローン」でマンションを購入した30歳会社員の悲劇【現実的なシミュレーションで解説】

もしもフルローンでを買ったなら…

投資物件の購入において、フルローンを利用するメリットは大きく3つ。

 

まず「タイミング」。前述のように、欲しいと思ったタイミングで住宅を購入することができます。

 

2つめは「手元に資金が残る」こと。頭金を払ったことで貯蓄が心許なくなった……そんなことを防ぐことができます。

 

3つめは、投資において「レバレッジ」を効かせ、元手を抑えて大きな収益を得られること。フルローンは手元にキャッシュを持ったまま、金額の大きな投資が可能なため、投資効率の観点からみるとメリットが大きいといえるでしょう。

 

デメリットとしては、なんといっても返済額が増えること。ここでは30歳の会社員が投資用の区分マンションを購入したと仮定して、返済シミュレーションをしていきます。

 

【物件例】

世田谷区の築12年、最寄り駅から徒歩4分の1K 利回り4.15%

 

物件価格:3,080万円

借入金額:一部ローン…2,464万円、フルローン…3,080万円

返済方式:元利均等

金利:固定2.25%

返済期間:30年

※家賃収入をローン返済に充てるキャッシュフローを想定(ボーナス返済なし)。

 

まず一部ローン利用の場合、利息分の支払いは926万6,573円。月々の返済額は9万4,185円となります。

 

そして全額ローンの場合、利息分の支払いは1,158万3,321円。月々の返済額は11万7,731円となります。

 

全額ローンを利用した場合、利息で231万円ほどの差、月々の返済額では2万円ほどの差となりました。

 

月々2万円ほどの差であれば、許容範囲という人も多いかもしれません。しかし試算では、ローンの返済が30年続きます。

 

30年間一度も空室期間がなければ良いですが、可能性は非常に低いでしょう。区分投資であれば投資物件に入居者がいない場合、月々のローン返済はそのまま損失となります。

 

また、当初は4%超あった利回りも、築年数の経過や空室対策のために家賃を下げることで低下していくでしょう。

 

さらに、建物の老朽化に伴う修繕等、物件の維持・管理費用もかかってくることから、「ローンは家賃収入で返せばいいから」と安易に考えるのはあまりにも危険です。

 

物件だけではありません。30歳で独り身のキャッシュフローであれば対応可能なローンであっても、その後、結婚や子どもの教育費用等、自身のライフイベントにともなってまとまった資金が必要になったとき、月々の返済は大きな障害となります。

 

不動産投資は働きながら取り組める投資手段として、現役世代の資産形成に有効な方法のひとつです。しかし、非常に長い期間ローンを背負うことから、投資物件に起こり得るさまざまなリスクまで勘案したうえで、自身のライフイベント、それにともなう支出の想定など、先々までの見通しを立てた計画的な運用が必須でしょう。

 

安易に投資を始めると、想定外のトラブルに対応できず、FIREどころか「ローン破産」に陥る可能性も十分に考えられるのです。