2,000万円あれば、老後は安心といえるのか?
では実際に2,000万円あれば老後は大丈夫なのでしょうか。前出の「市場ワーキング・グループ報告書」の2,000万円不足の根拠は、総務省『家計調査』(2017年)で、「夫が65歳以上、妻が60歳の夫婦のみの無職世帯で、夫が95歳、妻が90歳になるまでの30年間は夫婦とも健康である」ということを前提にした場合、「毎月約5万5,000円が赤字になる」ということが根拠になっています。
しかし、こちらは単年度の結果をもとにしたもの。最新の2021年調査の同条件でみてみると、毎月の赤字は2万2,106円と、2017年調査の約半分。ということは、老後に必要な金額は1,000万円ということになります。2,000万円不足の言葉だけが一人歩きしてしまった感があるのです。
なにはともあれ、多くの人が2,000万円を目標に資産形成を進めている昨今。どのようにその不足の穴を埋めるのかというと、多くの人が当てにするのが退職金。大手企業であれば「退職金2,000万円」というのも現実路線。それまで貯蓄ゼロでも、一気にリカバリーができるでしょう。
しかし近年、退職金は減少傾向。りそな銀行『企業年金ノート』によると、2000年代初頭の2003年には平均2,499万円*だった退職金は、2018年1,983万円と、15年で500万円ほど減少。2,000万円を割り込みました。今後はさらに減少することも予想され、退職金だけを充てにするのは危険なようです。
*大卒・大学院卒、管理・事務・技術職の平均退職給付金額
また、ただ「2,000万円あれば安心」とはいかないのが難しいところ。2,000万円問題では、前提として、30年間無職の状態で老後生活が続くとされ、夫は95歳、妻は90歳に達するとしています。ではそれが5年ほど伸びたらどうなるでしょうか。2017年時と同様の家計状況であれば、300万円以上足りない計算になります。
さらに持ち家だったとしましょう。家の維持は、2,000万円あれば足りるでしょうか。寿命が伸びれば伸びるほど、修繕リスクは高まり、突発的な出費は避けられなくなります。そんな予測不可能な支出のことを考えると、「老後はこれだけあれば大丈夫」ということはいえなくなるでしょう。
日本弁護士連合会『破産事件及び個人再生事件記録調査』によると、破産事件の10人に1人は70歳以上、6人に1人が60歳代です。高齢者の破産は、想像以上に珍しいことではありません。2,000万円あるから大丈夫! そう考えていた老夫婦が、思わぬ出費で破産……そんな将来も、決して珍しいことではないのです。