(※写真はイメージです/PIXTA)

「数ヵ月前から下痢が続いていて、ただの胃腸炎かなと思っていましたが、なかなか治らなくて」「最近時折、便に血が混じるようになってきました」。このように、腸の不調や、お腹の悩みを抱えて病院を受診する方は多くいるでしょう。齋藤宏章医師は、こうした症状を持っている人の中には「潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)」という難病が見つかることがあると指摘します。一体、どのような病気なのでしょうか?

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潰瘍性大腸炎とは?

潰瘍性大腸炎とは、文字通り大腸の表面に潰瘍やびらんが形成されて腸炎となってしまう病気のことです。クローン病と並んで炎症性腸疾患と総称される疾患です。風邪による腸炎と違うところは、身体の自然治癒力だけでは症状が改善しないところにあります。

 

病気になる原因自体はよく分かってはいないものの、自身の免疫が反応することによって腸に炎症が起き続けている状態として知られています。腸の粘膜に過剰な免疫細胞の応答が起き続けた結果、潰瘍やびらんが形成され、腸管が腫れ上がるということが生じます。このため、ただれた粘膜から出血し、血便症状が生じます。潰瘍が酷くならずに、血液が混じるほどでない場合でも、腸の炎症が継続するために、頻回の下痢や、食欲がなくなる、体重が減少するなどの症状が出現します。腹痛や発熱などの症状もよく見られます。

 

■人口10万人あたり100人程度…難病だが、決して珍しくない

日本では難病に指定されていますが、人口10万人あたり100人程度が登録されており、決して珍しくない病気です。欧米人に多い病気とされていますが、日本でも近年増加しています。また、罹りやすい年代は、10代や20代までの発症をピークに、若者から高齢者でも発症します。50代を過ぎてから発症する場合は、若年期に発症する場合に比べて、重症にはなりにくいのではないかと報告する研究があります。

診断は「内視鏡検査」で。専門医にかかることが重要

診断には、大腸内視鏡検査が必要になります。炎症の具合によっては、血便や、腸の炎症などの似たような症状を引き起こしやすいタイプの感染性腸炎(カンピロバクター腸炎や大腸アメーバなど)などと診断を見極める必要があり、腸の組織の検査や便を細菌の検査に回すこともあります。

 

潰瘍性大腸炎は直腸から炎症が広がることが多く、大腸内視鏡検査で炎症の範囲や、炎症の強さを直接見て診断をすることが、治療方法を決定する上でも重要になります。炎症の広がる範囲によって使う製剤の形態を変えたり、炎症の状況や症状に応じて、始める治療の強さを決めたりします。このため、潰瘍性大腸炎の治療経験の豊富な専門家の診察が必要になります。

治療のカギは「炎症を抑えること、再燃させないこと」

潰瘍性大腸炎では、発症した際にはまず症状を抑えること(寛解導入)、その後も再燃をさせないこと(寛解維持)が重要になります。軽症例では5-アミノサリチル酸薬といった腸の炎症を抑える内服の薬が行われ、中等症以上ではステロイド、生物学的製剤などの薬剤による免疫の調整が必要になります。特に、症状が強い場合や、食事が取れない場合には入院での治療の開始が必要になることがあります。

 

一度症状を落ち着かせた後には、再燃しないように、薬の調整をしながら治療を継続していくことになります。炎症が管理できないような場合や、炎症によって腸に穴が空いてしまうような場合には手術で大腸を切除することが必要になることもあります。また、一旦症状が落ち着いても、腸の炎症がくすぶっているような状態が続いてしまうと、炎症の再燃や悪化を認めることがあります。このため、長い目で見た治療戦略がとても重要です。

 

■新しい治療薬が次々開発され、治療の選択肢が増えている

特に、潰瘍性大腸炎の治療の分野では、新規の治療薬の開発が目覚ましく、従来の薬では炎症を繰り返し、難治であった例にも有効な薬が登場しています。潰瘍性大腸炎の腸炎を引き起こすメカニズムの解明が進むことによって、炎症を引き起こす機構を調整する製剤が登場しています。特に既存の治療に難渋している場合でもこれらの薬剤をうまく使うことで効果を維持することが可能になります。

 

たとえば、2018年に登場したJAK阻害剤(トファシチニブ)は、それまでのステロイドや抗TNFα抗体製剤での治療が難渋していた人にも寛解維持効果を認めることが国際的な試験から明らかにされています。

 

2017年にニューイングランドジャーナル誌に公開されたOCTAVE Sustain試験では、ステロイドや抗TNFα抗体製剤での治療では不十分であった人でも、治療開始後52週時点で40.6%の人が寛解維持を達成できていました。

 

2018年には抗α4βインテグリン抗体製剤(ベドリズマブ)も登場しました。こちらは治療開始後52週時点の臨床的な寛解率が、既存の抗TNFα抗体製剤(アダリムマブ)の23%と比較して、ベドリズマブでは31%と高い効果であったという結果が2019年の国際誌に報告されています。

 

また、2020年には、それまでクローン病の治療に用いられてきた抗ヒトIL-12/23モノクローナル抗体製剤(ウステキヌマブ)も潰瘍性大腸炎に用いることが可能となりました。こちらは、治療効果の妨げになる、薬への耐性が付きにくいことが利点として挙げられています。

 

これらの薬は一概にどの薬が最も優れている、というものではありませんが、治療の選択肢が増えていく中で、どのような薬剤から治療を開始していくか、個々人に合わせた治療が可能となっています。今後も開発される新薬の情報に注目していく必要があります。

早めに治療を受けるメリット

潰瘍性大腸炎の患者さんが早めに治療を受けるメリットはいくつかあります。これまでに挙げた症状を、潰瘍性大腸炎の患者さんは知らず知らず、我慢して過ごしていることが多いです。適切な治療を行うことで、そうした症状から解放され、日常生活を送ることができるようになります。

 

また、潰瘍性大腸炎によって引き起こされる大腸がんも大きな問題です。潰瘍性大腸炎によって長い間腸の粘膜に炎症が起き続けることが大腸がんのリスクを上げることが知られています。これは潰瘍性大腸炎関連大腸癌と呼ばれ、多発したり、内視鏡での診断が難しかったりなど通常の大腸がんと異なる性質を持つことから注意する必要があります。症状とともに大腸がんのリスクを長期的に管理することも、治療の重要な役割です。

潰瘍性大腸炎を予防するには

■腸内細菌が発症リスクを左右?「幼少期の外遊び」が発症予防になる?

では、そもそも潰瘍性大腸炎にならないようにするためにはどうすれば良いのか?と思われる方もいるでしょう。これまでに潰瘍性大腸炎になることのリスクが評価されていますが、残念ながら詳しくは分かっていません。一方で、食事や環境などの生活習慣が関わっているのではないか、と推定されています。また、都会に住んでいるほうが発症しやすいのではないか、とも推定されています。

 

たとえば2017年にカナダで行われた研究では田舎に住んでいる人のほうが、都会に住んでいる人よりも10%程度、炎症性腸疾患の発生率が低かったとする研究があります。また、2020年には同じくカナダから、小児期に緑地のあるところで過ごしているほうが小児期に潰瘍性大腸炎になりにくいとする研究が発表されています。

 

潰瘍性大腸炎を発症している人は、腸内細菌の多様性が失われていることが知られているため、小児期に多様な細菌に暴露するほうが良いのではないか、という仮説であるわけです。とはいえ、これらはまだまだ研究段階の結果であり、今後の研究の結果を待つ必要があります。肥満や運動不足も発症リスクであることが知られており、規則正しい生活をしたり、運動の習慣をつけたりすることが私たちにできる手段と言えそうです。

長引く下痢、血便症状があれば専門医へ

下痢や、発熱、腹痛などの潰瘍性大腸炎の初期の症状は、一般的な腸炎の症状と見分けるのが難しいことがあります。また、新型コロナ感染症も、11-49%が消化器の症状を呈すると言われており、これらを一概に見分けることは困難です。一方で、こうした症状は潰瘍性大腸炎の他にも、大腸がんや、カンピロバクター腸炎、腸管出血性大腸菌による腸炎など治療が必要な病気によることがあります。

 

血便がある際や、症状の期間が長い場合には、消化器内科を専門にする医療機関に受診し、検査の必要性を相談すると良いでしょう。

 

 

齋藤 宏章

仙台厚生病院消化器内科

 

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※本記事は、オンライン診療対応クリニック/病院の検索サイト『イシャチョク』掲載の記事を転載したものです。