(※写真はイメージです/PIXTA)

帝王切開はお腹を開けて赤ちゃんを取り出す手術であり、お産です。帝王切開は増加傾向にあり日本では25%を占めます。決してまれなお産のかたちではありません。帝王切開を控えたお母さんにとって不安なのは、何より痛みではないでしょうか。不安を和らげてお産に臨んでほしい。本稿では、お産を愛する麻酔科医・山﨑ゆか医師が、麻酔や産後の痛みの度合い、産後の過ごし方についてお話します。

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帝王切開ではどんな麻酔を使うの?

■一般的には「局所麻酔」

麻酔の方法には、局所麻酔(=意識がある)と全身麻酔(=意識がない)があります。帝王切開では、局所麻酔で手術を行うことが一般的です。中でも、区域麻酔と呼ばれる局所麻酔である脊椎麻酔(正式には脊椎くも膜下麻酔)や硬膜外麻酔で行います。区域麻酔は腰に注射をしたり、細い麻酔のチューブを入れたりして、腰にある神経の束(脊髄)の近くに薬を投与し、だいたい胸から足までの痛みがなくなります。

 

局所麻酔ではお母さんの意識はいつもどおりあって、自分で呼吸できますので、赤ちゃんが産まれたときに産声を聞けますし、手で赤ちゃんに触れることもできます。

 

立ち会いは病院の方針によってそれぞれです。コロナ禍ではオンラインで立ち会いしているところもあります。病院のスタッフに聞いてみてください。赤ちゃんやお母さんの写真もどんなふうに撮りたいという希望を伝えておくといいですよ。

 

■「全身麻酔」を使うケースとは?

一方、全身麻酔ではお母さんの血液中の麻酔薬濃度が高くなるために、麻酔薬が胎盤を通って赤ちゃんの脳にも影響し、生まれた赤ちゃんの呼吸が弱くなったり少し眠くなったりします。この薬の影響は一時的なもので、体内から薬がなくなってしまえば元気になります。また、お母さんも手術中は完全に意識がなくなり、気管内にチューブを入れて人工呼吸が必要になります。

 

以上のことから、帝王切開ではできるだけ局所麻酔を用いて行うのが第一選択となります。しかし緊急の場合など、やむをえず全身麻酔で行う場合もまれにあります。

局所麻酔を使うとどうなるの?

■合併症のリスクは?

局所麻酔で起こりうる合併症としては、足に力が入りにくい、低血圧、嘔吐・吐気、尿を出したい感覚がわかりにくい、頭痛、麻酔部位の感染、出血、血腫、神経障害(お尻から足の電気の走るような感覚、しびれ)、局所麻酔薬の血管内誤注入による痙攣や意識障害、局所麻酔薬の広範な麻酔効果出現による呼吸困難や全身麻酔となってしまう可能性などがあります。

 

帝王切開中の麻酔の全身管理はもとより、術後も脈拍、血圧、血液中の酸素濃度を集中監視モニターと頻回の診察で細かくチェックすることで合併症を早期発見・早期治療できるようにしていくのが麻酔科医の役目です。

 

局所麻酔だけであれば、麻酔から手術の間は意識がありますが、病院によっては赤ちゃんが生まれたあと眠たくなる薬を使う場合があります。

 

■麻酔が切れるのはいつ?

帝王切開の手術は30分から1時間ほどで終わります。お母さんの体をきれいに拭いたあとお部屋に帰ります。お部屋に帰るときは下半身の感覚もない状態ですが、数時間すると氷がとけるように足の感覚が戻ってきます。麻酔が切れてくるとともに痛みを感じてくるのであれば痛み止めを我慢せずに使いましょう。

 

麻酔の方法などの詳細をお知りになりたい方は、日本産科麻酔学会ホームページの『一般の皆様へ』の中の「帝王切開の麻酔Q&A(https://www.jsoap.com/general/c_section)」をご覧ください。

帝王切開の産後の過ごし方

■帝王切開は「産後の回復」に時間がかかる

帝王切開はお産であり、手術です。産後は産褥期といって6週間から8週間かけて妊娠前の体に戻っていきます。回復にかかるスピードは産後の過ごし方でまったく違ってきますし、産後の過ごし方は更年期や老年期に影響を与えます。特に帝王切開のお産は開腹手術でもあるので、産後の回復にはさらにゆっくり時間を要します。ですから経膣分娩よりも帝王切開のお産では入院期間も長く設定されています。

 

帝王切開が他の手術と違うのは、①傷口の痛みだけでなく子宮収縮の痛みがあること、②自分(お母さん)だけでなく赤ちゃんのお世話、特に授乳があることです。

 

■痛いときは「痛み止め」をしっかり使用

傷口の痛みは当日をピークに術後2-3日で軽快してくることが多いですが、大きな個人差があります。手術の麻酔が切れてくると痛みを感じてきます。

 

点滴や座薬、内服などをできるだけ定期的に使い、我慢せずにしっかり痛みを和らげて産後を過ごしましょう。痛み止めは痛みが軽いうちに使用したほうが効果は出やすいですし、痛みで辛いとお母さんの回復も遅れます。

 

薬の効果が出るまで少なくとも20-30分はかかりますし、座薬や内服などの痛み止めを使う間隔も6-8時間ほど空ける必要があるので、痛みを感じるときは早め早めに医療スタッフに伝えましょう。また、産婦人科で処方する薬は赤ちゃんへの影響は少ないものを選んでいますので、母乳への移行も心配ありません。市販薬を自己判断で使用するのは控えましょう。

 

また、帝王切開のあとは、できるだけ早くベッドから起きて動くことが必要です。いわゆるエコノミークラス症候群、血栓症が起こる危険性が高い手術だからです。そのためにはしっかり痛みをとること、できるだけ早くから食事をしっかりとること、起きる・座る・寝返りをうつなどの日常動作を腹筋に負担をかけずに行う練習をすることが大事です。

 

■できるだけ痛みを和らげるには?薬以外の方法

帝王切開の産後を楽に過ごすにはどうしたらいいのでしょうか? 痛み止めをしっかり使う以外にできることをお伝えしましょう。

 

①テープやショーツなどで傷を保護:

傷を摩擦から守ると痛みも和らぎますし、傷口をきれいに治すのに役立ちます。産褥ショーツなどで肌当たりの柔らかい素材で守ること、紫外線を当てないことも大事です。

 

②楽な姿勢や動作を心掛ける:

お腹の力をかけない動き方を学びましょう。特に日常の立つ、座る、寝返りをするなどの動作は術前から練習しておくと良いです。体全体を丸太棒のようにして枕を抱くように動くのが基本です。便秘予防にトイレに行く習慣をつける、トイレに足台を置くこともおすすめです。

 

③栄養のある食事を摂る:

体の回復のためにも、母乳のためにもしっかりと栄養のあるものを摂取しましょう。便秘は腹圧がかかるので食物繊維や水分を取ることも大切です。家族や宅食、ネットスーパー、ミールキットなどを利用してお母さんに負担のないかたちで食事ができる環境を整えましょう。

 

④体を温める:下腹部や下肢を中心にカイロや腹巻きなどで温めると血流がよくなります。

 

⑤リラックスする:

周りのサポートにしっかりと頼って頑張らないことが一番です。家族や地域のサポート(産後ヘルパーや産後ケア)に頼るのがお母さんの仕事です。ただし産後に赤ちゃんを抱えた中でサポートを探すのはとても負担になりますから、産前から家族や夫婦で話し合い、どういったサポートがあるのかを検討しておくことが大事です。産婦人科や行政の窓口にも聞いてみてください。

 

お産は人それぞれです。同じ帝王切開でも違うし、同じお母さんでも毎回違う。産後も人それぞれです。体を休めること、無理をしないこと。産後直後のお母さんにとっては、まずこれが大事です。お母さん自身だけでなく周りの家族の理解が必要です。経膣分娩よりゆっくりと、お母さんそれぞれのペースで赤ちゃんとの時間を楽しんでくださいね。困ったなと思う前の準備が産前からできるのがベストです。困ったなというときに頼るならここ!という場所を見つけておくのもおすすめですよ。

 

 

山﨑 ゆか

中部産婦人科医院、南草津野村病院

産科麻酔科医

日本麻酔科学会専門医

 

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※本記事は、オンライン診療対応クリニック/病院の検索サイト『イシャチョク』掲載の記事を転載したものです。