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なぜ損切りができない?
FXや株式投資などで取引を行ったあとに伸びると思っていた方向とは逆へ動いてしまったときに「戻ってきてくれるだろう」と放置した経験はありませんか?
運良く考えていた方向へ戻って来てくれて伸びた場合もあれば、逆方向の動きのまま加速して戻って来ない場合もあります。
そんなときに直ぐに損失を受け入れて損切り決済ができれば小さな傷で済みますが、「戻ってきてくれるだろう」という希望的観測に囚われて損切りができずに損失額が膨らむ可能性も充分にあり得ます。
なぜこのように人は損切りをすることをためらってしまうのでしょうか?
それは「プロスペクト理論」による「人の意思決定は、目の前にある損失の度合いによって変化する」という心理学に基づいた理論にて説かれています。
「プロスペクト理論」で引き起こされる不合理さとは?
プロスペクト理論は1979年に行動経済学者のダニエル・カーネマン氏とエイモス・トベルスキー氏によって提唱されました。プロスペクト(prospect)には期待・予想・見通しという意味があり、人の意思決定をモデル化した理論となります。
人の意思決定には「感情や感覚」が含まれているため、非合理的な判断をしてしまうことがあり、FXや株式投資で損失を抱えていても「戻ってきてくれるだろう」と考えるのも、意思決定の不合理によるものなのです。
プロスペクト理論は3種類の心理作用に分類されます。1つずつ解説していきます。
①損失回避性
「損失回避性」とは、得る嬉しさよりも失う悲しみの方が2倍強く感じるために損失を回避しようとするものです。
そのため、少しでも損失が出ている場面で自ら損を決定したり決断することをためらい、先延ばしにしようとします。損失を決断することは精神的ストレスとなるため、回避する行動を選ぶ性質です。
たとえば、
A:確実に10万円をもらえる。
B:80%の確率で当たりを引けば15万円もらえ、20%の確率ではずれを引けば8万円をもらえる。
この場合は確率の高いBを選ぶ人が多くなります。ですが、
C:確実に10万円をもらえる。
D:10%の確率で当たりを引けば30万円もらえ、90%の確率ではずれを引けば何ももらえない。
この場合は確率の高いCを選ぶ人が多くなります。また、損失の場合も考えてみましょう。
E:何もしないで1万円支払う。
F:コインを投げて表が出れば支払い免除、裏が出れば2万円を支払う。
この場合は二分の一の可能性にかけてFを選ぶ人が多くなります。このように、なるべく損をしたくないという感情で物事を判断するのが「損失回避性」です。
②感応度遁減性(かんのうどていげんせい)
「感応度遁減性」とは、利益や損失が大きくなったとしても価値観によって喜びや悲しみの感覚が鈍ることです。
たとえば、
A:自由に使えるお金が1万円の人に5千円のギフト券を渡した。
B:自由に使えるお金が1000万円の人に5千円のギフト券を渡した。
この場合はAの方が嬉しさは大きく、Bの方は嬉しさは小さくなります。損失の場合も考えてみましょう。
C:1万円を持っているときに5千円の出費をする。
D:1000万円を持っているときに5千円の出費をする。
この場合はCの方が悲しみは大きく、Dの方は悲しみは小さくなります。損失が膨らむ感覚の例も見てみましょう。
E:急にパソコンが壊れて10万円の出費が出て落ち込む。
F:500万円の新車を購入し、ついでに10万円のオプションもつけた。
損失が膨らむにつれて悲しみの感覚が麻痺していきます。そのため、同じ10万円であってもEの方は悲しみが大きく、Fの方は大きな損額で感覚が麻痺して悲しみは小さくなっているのです。
同じように、FXや株式投資で含み損になった初めのうちは落ち込みますが、損切りができない心理が働くと含み損が膨らんでも落ち込む気持ちが鈍くなってしまうのです。
③参照点依存性
「参照点依存性」とは、ある地点の数字を基準として、その基準値からの変化で損得を考えることです。この基準となる数字はそのときの状況により異なります。
たとえば
A:学年順位1位が当たり前の人が5位になった。
B:学年順位15位で上に行きたいと考えている人が5位になった。
この場合は同じ5位になったとしても、Aの方は参照点が1位、Bの方は参照点が15位です。損失回避性の特徴により、順位が下がることは上がることよりも2倍近くの悲しみが生じます。
FXや株式投資であれば「ポジションを持った価格」や「押し目買いや戻り売りの価格」が基準となり、そこから損得を判断していきます。