本記事では、桃山学院大学経済学部教授の中村勝之氏が、大学の総数が増える現代日本において、評価制度である「大学認証評価」は意味を成しているのか、疑問を呈します。
体裁だけが整うばかり…第三者機関による「日本の大学教育」への評価は意味を成しているのか (※写真はイメージです/PIXTA)

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大学業界が直面している難題「教学IR活動」の実際

大学には民間企業と同様の各種財務データ、顧客たる学生に関するさまざまなデータ(入学した入試制度、出席状況、成績、サークル加入の有無、内定企業など)が蓄積されている

 

※2020年4月から実施されている「高等教育の修学支援制度」(いわゆる大学無償化策)において、四大・短大などに対してこの制度の適応にふさわしいかどうか事前確認を取る必要がある。その際、大学の現状を表すあらゆるデータの提出が求められる。この制度は経済的理由で就学困難な学生が対象となるため、財源は社会保障関係費の一部として内閣府が予算計上し、文科省が執行する形をとっている。

 

さらに「授業評価アンケート」に代表される各種アンケートが実施され、その結果も蓄積されている。教学IR活動とは、こうした各種データを活用して学生やその取り巻く環境を把握しつつ、次の戦略立案のために役立てようとする活動である。

 

そのため、各大学には教学IRを専門に扱う部署が設置され、それに従事する専任教職員がいるところもある。

1部署で「学生の学習活動・成果の捕捉」は困難だが…

とはいえ、1つの部署で学生個人の学習活動とその成果を細かく捕捉するのは困難を極める。

 

そのため、講義などにおいて学生の履修・学習行動に関するさまざまな指標を使って状況を捕捉することが要請される。それを集約した1つの典型が学習ポートフォリオであろう。これは各学生の学習履歴を示したもので、学生自身がどんなスキルがどの程度身についたのかが一目で分かるようになっている。

 

ここで重要な点は、集めたデータを集約して学生に還元すること、すなわち可視化である。これも教学IR活動に含まれると一般に認識されている

 

※ただし、専門家の間では教学IR、ラーニング・アナリスティクス、教育工学は相互に関連しつつも独自のテーマをもった異なる分野のようである。次の文献が詳しい。松田岳士・渡辺雄貴「教学IR、ラーニング・アナリスティクス、教育工学」『日本教育工学会論文誌』第41巻第3号、2017年、pp.199-208。 

大学にとって「教学IR活動」が難題といえる2つの理由

これは2つの点で大学にとって難題である。

 

1つ目は人材の問題である。四大・短大合わせて1,000を超える高等教育機関のそれぞれに教学IRを専門的に扱える人材を確保するのは、少なくとも短期的には無理である。

 

そのため、教学IR活動で先駆的役割を果たしている大学などが中心となって、人材を養成するセミナーや教学IR活動を啓蒙するシンポジウム・研究会などが定期的に開催されている。それでも教学IR活動の重要性が大学内で共有されているかどうか、甚だ疑わしいのが現状である。

 

2つ目は大学認証評価である。これは2004年度から始まった制度で、各大学は7年に1度、大学の現状や改革の進捗状況などを第三者機関からチェックを受けなければならなくなった。

 

各大学これまで2度の認証評価を既に受け、2018年度から3巡目に入るが、今回は教学IR活動の成果を示さなければならなくなることが予想されている。

本来、大学の内部をよりよくするため活動のはずだが…

極端な言い回しで恐縮だが、1巡目は初めてのことだから《改革やります!》と言えば認められた。2巡目は《改革やってます!》と言えば認められた。だが、3巡目に突入すれば【で、どうなったの?】と問われるのは自然な成り行きであり、その証拠提示のために早い段階から教学IR活動の成果を蓄積しなければならない。

 

しかし、授業改革にせよ、教学IR活動にせよ、外部から押し付けられた印象の強い事項には、体裁だけを整えてやり過ごそうとするものである。

 

つまり、本来大学の内部をよりよくするための活動の1つであるはずの教学IR活動が、大学の外面をよくするために運用される。まさに本末転倒である。

 

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中村 勝之

 

山口県下関市出身。大阪市立大学大学院経済学研究科後期博士課程単位取得退学。桃山学院大学経済学部教授。専門は理論経済学。著書に『大学院へのミクロ経済学講義』(2009年、現代数学社)『〈新装版〉大学院へのマクロ経済学講義』(2021年、現代数学社)『シリーズ「岡山学」13 データで見る岡山』(共著による部分執筆、2016年、吉備人出版)がある。