⽇々の⽣活のなかで必ず⽬に⼊る機会がある「雑草」。雑草学博士の小笠原勝将氏によると、意外な効能を持つ種類もあるのだといいます。本記事では、知られざる「雑草」が持つ強みについて紹介していきます。
「雑草」は邪魔者か?…知られざる長所を雑草学博士が解説 (※写真はイメージです/PIXTA)

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急傾斜で雨の多い日本では「土壌保全」に役立っている

雑草は生態系の一員としてさまざまな生物と相互に関わっていますが、もちろん人の生活にも大きく役立っています。

 

その一つが雑草による土壌保全です。雑草がなければ裸地化し、降雨によって土砂が流亡してしまいます。急傾斜で雨の多い日本では、なおさらのことです。

 

しかし、雑草だったら何でも良いというわけではありません。例えば、ジシバリ(地縛)という多年生のキク科雑草があります。地面を縛るように根系を発達させることから名付けられた雑草です。チガヤも根系を良く発達させる雑草です。これらの雑草が傾斜地に優占すると土壌は崩壊しにくくなることから、土壌保全のために積極的に残すべき植物といえます。

 

また、私たちの身の周りには、重金属や石油などで汚染された場所がありますが、雑草はこれらの不良環境地の修復にも利用されています。

 

私たちの生活は「重金属」なしには成り立たないが…

世界には、塩類集積地や石油汚染地など、さまざまな不良環境がありますが、ここでは重金属汚染地に焦点を当てて、雑草による不良環境修復技術を説明します。

 

銅は高い耐腐食性、導電性、熱伝導率、抗菌性などから電化製品や建築資材さらには電線や硬貨などに利用されています。鉛もまた各種の合金の原料、ガス管、建築資材などに、カドミウムは電池や半導体の原料などに使われています。これらの重金属の他にも、水銀や砒素なども薬品や工業製品に利用されており、私たちの生活は重金属なしには成り立たないといっても過言ではありません。

 

しかし、その一方で重金属は場合によっては人の健康に重大な被害をもたらすこともあります。

カドミウムの過剰摂取が人体に及ぼす影響

カドミウムを過剰に摂取すると、腎臓機能が低下してカルシウムとリン欠乏が起こり、骨軟化症や骨多孔症に罹ってしまいます。これが1968年に初めて公害病に認定された「イタイイタイ病」です。

 

2003年に施行された土壌汚染対策法は土壌中の有害物質によって引き起こされる人の健康被害を防止する目的で制定された法律であり、その中でカドミウムの地下水中の基準値が0.01ピーピーエム(100万分の1)以下と定められています。令和3年4月より0.003ピーピーエムと一層厳しくなりました。

 

基準値を超えるカドミウムが鉱山跡地やメッキ工場跡地の他にも下水処理場で検出されることもあります。これは自然界において土壌中にごく微量に存在するカドミウムが作物の根から吸収され、人がその作物を摂取して最終的に糞尿と一緒に排出されるからです。

「食品に含まれる有害成分」も国際的な取り決めがある

また、土壌だけでなく食品に含まれる有害成分についても国際的な取り決めがあります。

 

コーデックス委員会が2011年に取りまとめた指針に従い、玄米中の許容カドミウム濃度は平成二二年度からそれまでの1.0ピーピーエムから0.4ピーピーエムに引き下げられました。

 

カドミウム汚染地を水源とする河川水を灌漑水として利用している水稲栽培においても深刻な問題となっており、カドミウムを含む農用地土壌汚染対策指定地域は全国で約7600ヘクタールにおよび、この内、平成30年度時点で93.7パーセントの約7100ヘクタールで対策事業は終了していますが、約500ヘクタールの水田が未だに対策指定地として残されています。

 

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小笠原 勝


1956年、秋田県生まれ。1978年、宇都宮大学農学部農学科卒業。1987年、民間会社を経て宇都宮大学に奉職。日本芝草学会長、日本雑草学会評議委員等を歴任。現在、宇都宮大学雑草管理教育研究センター教授、博士(農学)。専攻は雑草学。 主な著書「在来野草による緑化ハンドブック」(朝倉書店、共著)「Soil Health and Land Use Management」(Intech、共著)「東日本大震災からの農林水産業と地域社会の復興」(養賢堂、共著)研究論文多数。