定年を境に大きくダウンする収入。それをカバーするために、「年金の繰上げ受給」を選択するケースがありますが、そこにリスクはないのでしょうか。みていきましょう。
年金繰上げ受給…減額率「0.5%→0.4%」改善も見落としがちな落し穴 (※写真はイメージです/PIXTA)

年金の繰上げ減額率改善!それでも気をつけたいポイント

定年後の収入減と、年金受給開始までのギャップを埋めてくれるのが、年金の繰上げ受給です。現在、公的年金の受給開始は原則65歳からですが、希望により60~70歳の好きな時期で受給を開始できます。このうち受給開始を60~64歳にするのが繰上げ受給。ただし1ヵ月繰上げるごとに0.5%ずつ減額され、60歳まで最大5年間繰上げた場合には30%減となります(図表)。

 

出所:日本年金機構ホームページ
[図表]年金の繰上げ減額率 出所:日本年金機構ホームページ

 

仮に60歳から年金受給を開始したとしたら、30%減額の年金額が一生涯続きます。受給総額の損益分岐点は76歳8ヵ月。それを超えたら、65歳で受給した場合のほうが総額という点では得をしていることになります。また2022年4月から繰上げの減額率は0.5%から0.4%に変更となり、改正後は最大24%減となります。

 

【受給開始年齢別 年金損得分岐点】

■現行

60歳 76歳8ヵ月

61歳 77歳8ヵ月

62歳 78歳8ヵ月

63歳 79歳8ヵ月

64歳 80歳8ヵ月

 

■2022年4月から

60歳 80歳10ヵ月

61歳 81歳10ヵ月

62歳 82歳10ヵ月

63歳 83歳10ヵ月

64歳 84歳10ヵ月

 

注意が必要なのは、減額率0.4%となるのは、1962年4月2日以降生まれの人から。それ以前の人は繰上げ受給を申請しても減額率は0.5%のままです、

 

減額率の改善を受けて、繰上げ受給を検討する人もいるでしょう。ただデメリットあることも十分理解しなければなりません。日本年金機構では、繰上げ受給の注意点として下記などをあげています。

 

①国民年金に任意加入中の方は繰上げ請求できません。また、繰上げ請求後に任意加入することはできず、保険料を追納することもできなくなります。

 

②受給権は請求書が受理された日に発生し、年金は受給権が発生した月の翌月分から支給されます。受給権発生後に繰上げ請求を取り消したり、変更したりすることはできません。

 

③老齢基礎年金を全部繰上げて請求する場合、特別支給の老齢厚生 (退職共済) 年金のうち基礎年金相当額の支給が停止されます。報酬比例部分は支給されます。

 

④老齢基礎年金を繰上げて請求した後は、事後重症などによる障害基礎年金を請求することができなくなります。

 

⑤老齢基礎年金を繰上げて請求した後は、寡婦年金は支給されません。また、既に寡婦年金を受給されている方については、寡婦年金の権利がなくなります。

 

⑥老齢基礎年金を繰上げて請求した場合、65歳になるまで遺族厚生年金・遺族共済年金を併給できません。

 

出所:日本年金機構ホームページより

 

特に気を付けたいのが「国民年金の任意加入ができなくなる」こと。20歳から60歳になるまでは年金制度の加入は必須ですが、1991年3月までは20歳以上でも学生は強制加入ではありませんでした。

 

また学生納付特例制度を利用しつつ、追納期限を過ぎ、保険料の未納状態の人もいるでしょう。そのような人は60歳以降に国民年金の任意加入制度を利用し、満額に近づけることができます。

 

しかし繰上げ請求をしてしまうと、任意加入により受給金額を増やす機会を失ってしまいます。特に「学生納付特例制度では、保険料の納付が免除される」と勘違いして、知らずに未納状態にある人が結構います。

 

一度、受給が開始されると後戻りができない年金制度。思わぬ損をしないためにも、その仕組みをきちんと理解しておくことが重要です。