非正規雇用者は正規雇用者と比較して「仕事満足度」が高い一方で、「低年金の単身高齢者増加」という深刻な問題を引き起こす。ここでは「受け入れざるを得ない日本の未来」について、リクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏が解説していく。 ※本連載は、書籍『統計で考える働き方の未来 ――高齢者が働き続ける国へ』(筑摩書房)より一部を抜粋・再編集したものです。
生活費「月15万円」の単身高齢者…「生活保護受給者」増加で日本社会に暗雲が立ち込める (写真はイメージです/PIXTA)

「単身の高齢者」が急増…日本社会の苦しい今後

未婚非正規の将来はどうなるのだろうか。生涯未婚時代を生きた人が歳をとれば、その人たちは単身の高齢者になる。近年急速に進んだ未婚化は、近い将来に単身高齢世帯の急増という帰結をもたらす。

 

厚生年金保険の受給額は在職時の収入に応じて決まる。このため、働き盛りの頃を低賃金の非正規雇用として過ごしてしまえば、年老いた時に十分な年金をもらうことはできない。そして、結婚をしていない彼らには頼るべき配偶者も子どもも存在しない。

 

そうなると、彼らの老後に待ち受ける現実は、体力の続く限り働き続けなければならないという未来しかない。多くの人は高齢になっても働き続け、なんとか生計をやりくりすることになる。

 

幸い、総務省「家計調査」の2018年の集計によれば、単身高齢世帯の支出額は月15万6894円とそう多くはない。厚生年金保険の受取額が月10万円だとしても、細々と仕事をしていけばなんとか食いつないでいくことはできる。

 

彼らの未来に待ち受ける試練を、彼ら自身の手で解決できるのであればまだよい。しかし、すべての人が永遠に健康に働くことなどできない。彼らが働けなくなったとき、頼るべき人もおらず年金も不十分となれば、最終的には生活保護で生計を維持せざるを得なくなるだろう。

 

非正規雇用問題は低年金問題につながる。そして、低年金は生活保護に直結する。日本社会で進む未婚非正規化が、社会保障財政にも大きな影響を与えると予想されるのである。

 

今後、非正規雇用の問題は社会保障の問題に形を変えて、日本社会に重くのしかかってくるであろう。

 

年金制度は制度的に大きな欠陥を抱えている。現役時代に年金保険料を納めなければ、将来の年金の受給はもちろんできない。しかし、高齢になって働けなくなれば、結局のところ生活保護の受給要件を満たすことになり、それによって生活ができてしまうのだ。

 

年金制度はそもそもモラルハザードが起こる制度設計になっているのである。