非正規雇用者は正規雇用者と比較して「仕事満足度」が高い一方で、「低年金の単身高齢者増加」という深刻な問題を引き起こす。ここでは「受け入れざるを得ない日本の未来」について、リクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏が解説していく。 ※本連載は、書籍『統計で考える働き方の未来 ――高齢者が働き続ける国へ』(筑摩書房)より一部を抜粋・再編集したものです。
生活費「月15万円」の単身高齢者…「生活保護受給者」増加で日本社会に暗雲が立ち込める (写真はイメージです/PIXTA)

「すべての人を正規雇用」するのが実現不可能なワケ

かつて、こういった人たちの受け皿となってきたのは自営業である。しかし、現代の日本では自営業は大きく衰退してしまっている。労働力調査によれば、就業者に占める自営業者の割合は長期的に減少を続けているのである。

 

現代において、正規雇用の働き方を望んでいない人たちの選択肢はほとんど非正規雇用しかない。こういった人たちに納得感を持ってもらいながら、持続的に能力を向上させていく方策を描くことはそう簡単ではないだろう。

 

未婚非正規解消のための課題の一つ目が非正規雇用者の能力をいかに開発していくかということであるとすれば、二つ目の重要な課題は社会全体で現場労働をどう受け止めるかということになる。

 

雇用は産業を映す鏡でもある。経済環境が変わる中で染み出してくる現場労働は誰かによってなされなければならない。非正規雇用がなぜ生まれるのかといえば、そこに社会的なニーズがあるからなのだ。

 

たとえば、配達作業員の仕事が人々の生活を豊かにしていることは言うまでもない。しかし、こうした業務の多くは非正規雇用者によって遂行されている。

 

世の中には、多くの人に必要とされている仕事であるものの、その仕事の遂行にあたっては必ずしも長期的な訓練が必要とされないものが存在する。

 

非正規雇用を世の中からなくすべきだというのであれば、こういった仕事を誰が担うのかも同時にデザインしていかねばならないのではないか。すべての人を正規雇用として長期的な訓練を受けながら就労させるという未来は、産業の側面から考えたときに実現不可能なのだ。

 

今後、高齢化で若手・中堅層の労働力はますます希少となる。それにもかかわらず、働き盛りにある世代を単調な仕事に追いやっていては、一体誰が今後の日本経済を担うのだろうか。

 

日本が超高齢社会に直面している現在・未来において、若手・中堅に彼らにしかできない仕事をしてもらう必要がある。そのためには、いかにして彼らの能力を高めていくかと同時に、経済活動において漏れ出した現場労働をだれが担うのかを考えねばならない。