この10年間で唯一賃金が減少したのは「男性中堅層」
賃金構造基本統計調査では、大学卒や高校卒の新規就業者の初任給を継続的に調査しているが、初任給は2013年を境に一本調子で増加している([図表2])。
若年層の賃金増加の原因は、ひとえに人手不足によるものであろう。賃金はその人の生産性の高さによって決まるが、それと同時に労働市場の需給によっても決まる。特定の属性や職にある人が多くの企業組織で足りなくなるという事態になれば、その人が持つ能力以上の待遇が用意されることもあるのだ。
賃金の増加が認められるのは高齢層も同様である。そして、この10年間で唯一賃金が減少しているのは男性中堅層である。40〜44歳の男性が6.8%減、45〜49歳が4.1%減と、ほかの性・年代層で軒並み賃金が増えているなか、男性中堅層だけが賃金が減少している。
つまり、近年の低迷する賃金の問題は、男性中堅層の問題にほかならないのだ。世の中で影響力の大きい働き盛りの男性の賃金が上がらないことが、賃金が増えない印象をことさらに強くしているのである。
かつて、中堅男性は一家の生計を担う大黒柱であったと同時に、企業の利益や国際競争力の向上を担う主戦力であった。女性活躍の推進や高齢者の活用、若手の登用など、今まで日本の労働市場の脇役であった人たちが脚光を浴びるなかで、男性中堅層だけが賃金が下がっている。これはなぜか。
賃金低下を社会のせいにする人もいるだろう。しかし、彼らの賃金が減少したのは、彼らの性差による比較優位が消失したからだと考えるべきではないだろうか。
女性が活躍し始めたことで、能力の優劣にかかわらず中堅男性に独占的に社内の重要なポジションを任せるといった運用が、もはや多くの日本企業で行われなくなってきているのである。結果として、女性たちとの競争にさらされた一部の男性はその競争に負け、社内での重要な地位を追われることとなった。
これは中堅男性の価値創造機能が相対的に低下したからにほかならない。女性活躍という現代日本で進んだ構造変化が、賃金の構造にも大きな変化をもたらした。失われた数十年といわれている時代に真に失われたものは中堅男性の比較優位であったのだ。
坂本 貴志
リクルートワークス研究所 研究員