本記事は、ニッセイ基礎研究所が公開した保険会社経営に関するレポートを転載したものです。
自動運転と保険の進化…レベル3以降の自動運転をどう補償するか? (写真はイメージです/PIXTA)

自動運転中の事故における損害賠償責任の論点

自動運転中の賠償責任のあり方については、2010年代より、国内外で議論が進められてきた。2018年には、国土交通省の自動運転における損害賠償責任に関する研究会が報告書を公表している。

 

この先、2025年頃には、レベル4の自動運転が導入される見通しであり、この報告書の内容が補償のベースになるものと考えられる。報告書のポイントについて、何点かみていくこととしたい。

※ 2020年代前半を目途に、自賠法に基づく損害賠償責任のあり方について、整理された各論点を含めて検証することが必要とされている。

※ ホンダ社は、「レベル4」の自動運転機能を搭載した自動車の公道での技術実証を2022年に栃木県宇都宮市・芳賀町で実施する予定としている。

 

自動運転中の運転者の運行支配

 

自動車損害賠償保障法(自賠法)では、運行供用者は「自己のために自動車を運行の用に供する者」とされている。運行供用者には、マイカーの運転者や自動車運転事業者などが該当する。

 

最高裁の判例により、運行供用者は、自動車を運行支配して、運行利益を得ている者とされている。研究会では、自動運転システム利用中の運転者の運行支配、つまり、運転者は運行供用者の要件を満たしているかどうか、が問題となった。

 

結論は、自動運転でも、自動車の所有者や自動車運転事業者等に運行支配や運行利益が認められるとして、従来の運行供用者責任を維持することとされた。この結果、自賠責保険や自動車保険(対人賠償)は、自動運転中に生じた対人事故についても、従来と同様、損害賠償責任が補償されることとなった。

 

ハッキングにより起きた事故での被害者の救済

 

つぎに、自動車の保有者が保守点検義務やセキュリティ対策を果たしていたにもかかわらず、自動運転システムがハッキングされ、事故が起きてしまった場合が問題とされた。この場合、被害者の救済はどのように行うべきか。

 

結論は、ハッキングされた自動車は、盗難車と同様の考え方で対応することが可能というものだった。つまり、ハッキングにより起きた事故についても、加害車両不明のひき逃げの場合などで行われている、政府の保障事業の枠組みを用いて被害者を救済することとされた。

 

自動運転中の自損事故の自賠法適用

 

自動運転システム利用中は、運行供用者または運転者が運転に関与する度合いが減少する。このため、従来と異なり、自損事故であっても、自賠法の適用対象とすることが考えられた。ただ、議論の結論は、現在と同様、自賠法の保護の対象とはせず、自損事故については、自動車保険により対応することとされた。

 

自動運転中の事故での運転者の運行注意

 

自動運転中は、自動車の運行をシステムに委ねている。このため、事故が起きた場合、運行供用者は運行の注意を怠ったとはいえないのではないか、という議論があった。

 

この、注意を怠っていないということは、自賠法上の賠償責任が免責となる要件の1つとなるため、重要な論点といえる。議論の結論としては、たしかに自動運転中は運転に関する注意義務は軽減される可能性があるが、一方でシステム作動の確認や、ソフト・データのアップデートなど、他の注意義務が大きくなる可能性がある。

 

このため、自動運転技術の進展等に応じた注意義務を新たに負うことも考えられる、とされた。

 

外部データの誤謬や通信遮断による事故

 

自動運転中に、地図情報等の外部データが誤っていたり、データ通信ができなかったりしたために事故が発生したとする。この場合、そもそも自動車の欠陥といえるだろうか。

 

結論は、外部データの誤謬や通信遮断等の事態が発生したとしても、安全に運行できるべきであり、こうした安全性が確保されないシステムは、「構造上の欠陥又は機能の障害」があると評価されうる、とされた。