きちんと睡眠をとっていても、時間や場所を問わず強い睡魔に襲われる疾患「ナルコレプシー」。本記事では、小学生の頃にナルコレプシー(過眠症)を発症して以来、「眠ってしまうこと」で様々な偏見を向けられてきた川崎俊氏が、ナルコレプシーの基礎知識について解説していきます。
怠け者のレッテルを張られることも…闘病者が語る「ナルコレプシー」の苦悩 (※画像はイメージです/PIXTA)

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どんな状況下でも寝てしまうナルコレプシーの恐ろしさ

あなたは重大な会議や試験、車の運転中等、普通は眠らないような状況で眠ってしまったことがありますか?

 

普通は眠らない状況なのだから眠らないだろう、という方が大半だと思います。至って当たり前のことですよね。

 

それでは、眠らないことが当たり前の状況で寝ている人を見たら、どのように感じますか?

 

「普通は眠らないだろ!」「昨日夜更かししてたのか」「いつも怠けすぎだろ」と思うのではないでしょうか。相手が上司や取引先の方ともなれば、「失礼すぎる、なんでこんな場面で寝るんだ!」と怒りを覚える人も中にはいるでしょう。

 

しかし、どんな状況下でも寝てしまうのがナルコレプシーという疾患なんです。

 

ナルコレプシーは過眠症の一つで、どんな場面でも、突然眠りに落ちてしまいます。人生のかかった試験中、恋人と幸せに話している時、自転車の走行中、重要な会議の最中、ナルコレプシーの症状は場所を選ばずに襲ってきます。

 

現状でナルコレプシーはあまり認知されていない疾患です。そのため、多くの場面で制限があり、生活の負担となってきます。

患者の意思に関わらず、毎日のように発作が襲ってくる

以下、個人の意見や誤った知識、情報にならないように、理事として関わっているNPO法人日本ナルコレプシー協会のHPの文章より一部引用させていただきます。

 

ナルコレプシーおよびその他の関連過眠症患者は、社会的にきわめて不利な立場に置かれています。正しい治療なくしては、日常の社会生活を営むこと自体が困難だからです。

 

しかし、現状では、患者に対する支援や、適切な治療の機会は十分とはいえず、患者の置かれている状況は深刻なものとなっています。

 

ナルコレプシーおよびその他の関連過眠症は、一日に何度も睡眠の発作が起こる疾患です。

 

患者自身の意志に関わりなく、毎日のように日中強い眠気の発作が襲ってくるのです。さらに、発作による日常生活や仕事への支障だけでなく、過眠症に対する一般の認識の乏しさ等からくる弊害によって、二次的な問題が生じ、患者が被っている不利益は大変大きなものとなっています。そのため、適切な治療と、生活への支援が不可欠です。

眠気の発作は、自分の努力や意志ではどうにもならない

患者自身、夜間に十分な睡眠を取ったり生活のリズムを改善したりする等、眠気に対して様々な努力を行っています。しかし、努力や意志では日中、突然襲ってくる強い眠気の発作を抑えることは不可能です。

 

そのため、上司が目の前にいる重要な会議中に眠り込んだり、入学試験の最中に眠り込んで失敗をしたりといったことがしばしば起こります。授業中、仕事中、談話中等、患者それぞれが持つ社会生活の様々な場面で発作が起こるのです。

 

さらに未治療の場合、列車、船舶、バス、タクシー、乗用車等の運転中にも眠り込むことがあり、大事故につながった事例もあります。

 

発作による居眠りを患者自身が「病気である」と自覚していないことが多く、こと事故に至る場合は、適切な治療機会の逸失が、社会的な損失につながっています。

友人や職を失い、性格に変化が生じることも…

ナルコレプシーには特徴的な症状として、眠気の発作の他「情動脱力発作」というものがあります。

 

友人と楽しく会話をしている時に笑ったり、面白い話をしようと得意な気持ちになったりした時等、突然、全身や頚、腰、下肢等の力が両側性に抜けてしまい、身体が沈み込んだり、ひどい場合には床に崩れ落ちたりするものです。

 

さらに仕事の上でも、ウエイトレスが料理を盛った皿を持ってお客に挨拶した途端に脱力が起こり、料理を落としてしまい解雇された例もあります。

 

このような情動脱力発作のため、患者は友人との楽しい会話を避けるようになったり、職を失ったりして、落ち込みがちとなります。このようにナルコレプシーに起因して生じる性格の変化を「ナルコレプトイド性格変化」といいます。

「ナルコレプシー」が教育現場で発見されづらい理由

ナルコレプシーの好発年齢は十〜二十代で、十四〜十六歳がもっとも多いと言われています。この年齢はまさに中学生〜高校生の頃です。

 

日中の居眠りは学校にいる時間ですが、ナルコレプシーのことを知っている学校教員はまだまだ少なく、教育現場で発見に至るケースは決して多くありません。

 

子供が学校での居眠りを親に言わなかったら、親もまさか病気を抱えているとは思わないため、当然ナルコレプシーの発見は遅れるでしょう。社会人になってから、あまりに寝てしまうから調べてみたら病気だったということも珍しくありません。

 

さらに厄介なものがナルコレプトイド性格変化です。ナルコレプシーの症状により、何度注意されても眠ってしまい、起きていたくても眠ってしまいます。

 

他の人と比較する等を繰り返していく中でナルコレプイド性格変化は、自信を喪失し、消極的、受動的、内向的となり、好奇心が減少し、注意力の持続、物事への執着等が苦手となり、仕事や対人関係の張り合いもだんだん失われがちになってしまうものです。

 

このようにして発症してから長い間気づかれず、発見が遅れることで本人の性格を変えてしまうほどの影響を及ぼしてしまうのです。少しでも早期発見ができるように、患者会としても学校現場への啓発活動には力を入れて取り組んでいます。

 

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川崎 俊

一九九二年静岡県出身。中学一年でナルコレプシーの診断を受け、眠気と闘いながらの日常生活を余儀なくされる。

 

地元公立病院、一般企業を経て、個人事業主として独立・起業する。「治療院経営」と「向き合い方からビジネス立ち上げのサポート」をする傍ら、自主制作の本を個人で出版したり、なるこ会の理事として活動したりしている。啓発活動もウェブメディアやTV番組などにも取り上げられ、セミナーや学校での啓発講座なども行っている。