『不完全な親子』。父、そして母の介護を続けていた松谷美善氏は、自身の著書のなかで、家族との触れ合いを「不完全」と語ります。愛はある。でもどこかチグハグな関係……父を看取り、「恐ろしく遠回りをして」、同氏が得た一つの気づきとは。
「父と手をつないで歩いた記憶もない」チグハグな関係だった娘…“父の死の瞬間”を見て悟った、一つの真実 (※画像はイメージです/PIXTA)

「ご臨終です」「え?これで終わり?」涙は出なかった

もちろん、すぐに駆けつけましたが、ここからが昭和一桁生まれの心臓の強さです。17時間近く、生命維持装置で持ちこたえました。私は疲れて、病室の床で寝てしまいました。

 

家に着替えに戻ったあいだに、再度危篤の連絡があり、私の到着を待っていたように生命維持装置は外されました。

 

「ご臨終です」

 

「え? これで終わり?」

 

いくつも疑問符が沸いては消えました。ここでもまだ実感は湧いてきません。ただ、「これからどうしよう」という思いで頭のなかはいっぱいで、涙は一滴も出ませんでした。

 

走馬灯のように思い出が駆けめぐるのかと思ったら、それも違いました。悲しいという気持ちはもちろんありましたが、続けて喪主を務めたため、感傷に浸っている暇がなかったのが正直なところです。

 

思い返すと私の家族は、ずいぶんとチグハグな関係でした。時代背景がそうさせたのか、それとも私たち親子が単に相性が悪かったからなのか、恐ろしく遠回りをして、やっと両親を看取ることができました。

 

完璧な人間はいません。ですから、完璧な親でも子でもなくてよいのです。私はやっとこの結論にたどり着きました。なにもこれは私だけに限ったことではなく、外から見ている分にはわからない、どこの家庭にもありうることだと思います。

 

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松谷 美善

1959年9月、東京都港区で出生。

80年、國學院大學栃木短期大学国文学科卒業。

87年に結婚。95年より、難病を患う母の介護を始め、現在に至る。

著書に『涙のち晴れ 母と過ごした19年間の介護暮らし』(2014年、小社刊)、

『涙のち晴れ 母と過ごした19年間の介護暮らし(文庫版)』(2018年、小社刊)。