オストロゴルスキーのパラドックスとは
状況を整理すると、次の表のようになる。総合評価では、依然として、洋風が多数派だ。このままメンバーが集合して、単純に多数決をとれば、2人対3人で、洋風レストランに決まりそうだ。
しかし、Aさんと、Bさんは、多数決のやり方について、つぎのような提案をした。
「お店を選ぶのには、いくつかのポイントがある。ポイントごとに多数決をとって、多くのポイントで勝っている、お店を選ぶことにしてはどうか。」
他のメンバーは、この提案を受け入れた。早速、各ポイントで多数決をして、評価してみた。
すると、まず、お酒に合うかどうかについては、3人対2人で和風。お店の雰囲気についても、3人対2人で和風。コスパも、3人対2人で和風が多数となった。
つまり、3つのポイントのいずれでも、和風が多数となった。この結果、パーティー会場は、和風レストランに決まった。Aさんと、Bさんの、多数派工作が、首尾よく成功したわけだ。
これは、「オストロゴルスキーのパラドックス」といわれる話の焼き直しだ。19~20世紀のロシアの政治思想家である、オストロゴルスキー氏にちなんで、そう呼ばれている。じつは、同氏自身が、このパラドックスを論じたわけではないが、政党政治に対する反対者とみられていた同氏の名前をとって、そう呼ばれるようになったという。
このパラドックスは、多数決による選挙制度が必ずしもうまく機能しない典型事例として、社会科学では有名なものだ。個別の政策での多数派と、政党選択での多数派が異なる場合がある、ということの事例として、よく取り上げられる。
それにしても、懇親会のパーティーを和風レストランにするために、Aさんと、Bさんは、ここまで念入りの多数派工作をする必要が本当にあったのだろうか?
もし、Aさんと、Bさんが、残りの3人に対して、素直に、自分たちの意見を主張していたらどうだっただろうか? 2人の熱意によって、意外と、すんなり和風レストランに落ち着いたかもしれない。
多数決の結果を動かそうと、手の込んだ多数派工作をする前に、まずはよく話し合って、みんなが納得のいく意思決定にこぎつけることが大事だと思われるが、いかがだろうか。
篠原 拓也
ニッセイ基礎研究所