本連載は、ニッセイ基礎研究所が2021年11月9日に公開したレポートを転載したものです。
Spotifyのランキングから見る日本アニメの海外人気-なぜOfficial髭男dismとあいみょんはランクインしないのか (写真はイメージです/PIXTA)

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1―過去5年間に海外で最も再生された日本のアーティストの楽曲

音楽ストリーミングサービスであるSpotifyは、2008年にスウェーデンでサービスを開始し、現在(2021年11月)は、世界で3億8100万人以上のユーザーが利用している。日本においても2021年9月に、サービスを開始してから5年という節目を迎えた。この節目に際し、Spotifyは「過去5年間に国内で最も再生された楽曲」や「100万再生を突破した国や地域の数が多い日本のアーティスト」など5年間を振り返るランキングを発表した

 

それらのランキングの中で、筆者の目を引いたのは「過去5年間に海外で最も再生された日本のアーティストの楽曲」である。まずは「過去5年間に国内で最も再生された楽曲」を見てもらいたい(図表1)。ここには、国内で最も再生された楽曲のその殆どがマスメディアを賑わせ、連日耳にした我々にとって耳なじみのある曲がランクインしている。

※ Rolling Stone Japan 編集部「Spotify日本上陸5周年で各種ランキング発表」(2021/11/10)https://rollingstonejapan.com/articles/detail/36774/2/1/1

 

[図表1]過去5年間に国内で最も再生された楽曲
[図表1]過去5年間に国内で最も再生された楽曲

 

次に、図表2の「過去5年間に海外で最も再生された日本のアーティストの楽曲」をみてもらいたい。国内外のランキングで共通してランクインしているのはYOASOBIの「夜に駆ける」のみである。

 

一方で国内ランキングにおいて、複数曲をランクインさせたOfficial髭男dismやあいみょんは1曲もランクインしておらず、2008年にリリースされた いきものがかり や、2014年にリリースされたKANA-BOONの楽曲がランクインしている。日本と海外のランキングにおいて、これほどの違いが現れた要因はどこにあったのだろうか。

 

[図表2]過去5年間に海外で最も再生された日本のアーティストの楽曲
[図表2]過去5年間に海外で最も再生された日本のアーティストの楽曲

2―なぜOfficial髭男dismとあいみょんはランクインしないのか

サブカルチャーに精通する読者の中には、既にピンとくる人もいたのではないだろうか。海外での再生ランキングにランクインしている楽曲のその多くが、日本のアニメ作品とタイアップしているのである。図表3は、図表2の楽曲とそれぞれのタイアップしたアニメ作品を整理したものである。2位の「Tokyo Drift」と8位の「夜に駆ける」以外すべてがアニメ作品とタイアップしているのである。

 

[図表3]過去5年間に海外で最も再生された日本のアーティストの楽曲とそのタイアップアニメ作品
[図表3]過去5年間に海外で最も再生された日本のアーティストの楽曲とそのタイアップアニメ作品

 

日本でもブームを起こした『東京喰種トーキョーグール』や『呪術廻戦』は海外市場においても人気コンテンツであり、特に『呪術廻戦』は、世界で約1億人が視聴登録するアニメコンテンツ配信サービス最大手のクランチロールが主催する、200以上の国・地域から約1500万人のファンが投票した「Crunchyrollアニメアワード」(2021年2月19日)においてアニメ・オブ・ザ・イヤー(大賞)に選ばれるなど今最も勢いのあるコンテンツの一つである。

※ https://www.crunchyroll.com/animeawards/winners/index.html

 

図表3にて、7位にランクインしている『僕のヒーローアカデミア』も、図表4のNPD BookScan Top 20 Adult Graphic Novels 2020(2020年度 北米で最も売れた大人向けグラフィックノベル)において、年間売り上げ1位となっている。同ランキングはアメコミ(アメリカンコミックス)の代表とされるマーベルコミックス※1やDCコミックス※2の独断場であるが、それらの作品を抑え同タイトルは20位以内に9つもランクインしている。

※1 ニューヨークに本社を置く漫画出版社。アイアンマン、スパイダーマン、キャプテンアメリカ、アベンジャーズなどアメリカン・コミックスを代表するスーパーヒーローの多くを生み出した。現在はウォルト・ディズニー・カンパニーの傘下。

※2 カリフォルニアに本社を置くアメリカで最も歴史のある漫画出版会社のひとつ。スーパーマン、バットマン、アクアマン、ジャスティス・リーグなどのヒーローが活躍するDCユニバースを展開している。DCコミックスを展開するDCエンターテインメントは、現在ワーナーブラザーズの子会社。

 

[図表4]NPD BookScan Top 20 Adult Graphic Novels 2020※
[図表4]NPD BookScan Top 20 Adult Graphic Novels 2020

※ FULL YEAR 2020 NPD BOOKSCAN TOP 20 ADULT GRAPHIC NOVELS(2021/01/20) https://icv2.com/articles/markets/view/47376/full-year-2020-npd-bookscan-top-20-adult-graphic-novels

 

もちろん日本で2,700億円の経済効果※1を生んだ『鬼滅の刃』についても、その人気は世界規模であり2021年5月現在ランキング3位の「紅蓮華」が起用されている『鬼滅の刃 無限列車編』は世界興行収入が517億円を超え、スペインでは初週興行収入ランキング1位、米国では外国語映画のオープニング興行成績で歴代1位を獲得している※2

※1 時事ドットコムニュース「「鬼滅」経済効果、2700億円 人気「全集中」―第一生命経済研」(2020/12/04) https://www.jiji.com/jc/article?k=2020120401110&g=eco

※2  ITmedia「映画「鬼滅の刃」、世界興収517億円突破 来場者数は4135万人に 今後は英国やオランダでも公開へ」(2021/05/24) https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2105/24/news089.html

 

次に、図表3にて4位・5位にランクインしている「シルエット」「ブルーバード」は共に『NARUTO-ナルト-疾風伝』のテーマソングとして起用されていた。同作品は海外市場で最も人気のあるアニメと言われており、放送していたテレビ東京ホールディングスにおけるアニメ事業のライツの売上において姉妹作品である『BORUTO』と共に売上高と粗利益の1位と2位を占めている。コミックスも2021年2月現在で海外累計発行部数は 9,700万部を超えている。

※ 株式会社テレビ東京ホールディングス2019年3月期 通期決算補足資料 https://www.nikkei.com/nkd/disclosure/tdnr/bp8ssi/

 

最後に、図表3の2位にランクインした「Tokyo Drift」はアニメ作品ではないが、洋画の『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』(原題:The Fast and the Furious: Tokyo Drift)のメインサウンドに起用されていた。同シリーズは2001年から続く人気カーアクション映画で、日本のファンからは『ワイスピ』という愛称で親しまれている。『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』は日本が舞台となっているため、同曲は15年前にリリースされたものの、エキゾチックなメロディと日本語の歌詞が使われており、所謂“クールな日本の曲”の代表として認知している外国人も多いようである。

3―アニメは日本への入り口

ここまで説明してきた通り、過去5年間に海外で最も再生された日本のアーティストの楽曲のその多くがアニメ作品のテーマソングであり、海外の人たちにとってアニメは日本の楽曲を知る上での入り口となっているのである。

 

2002年に米国のジャーナリスト、ダグラス・マグレイがJapan’s gross national coolを提唱して以降、日本の海外のおけるソフトパワーはクール・ジャパンとして認知され、2010年6月には、経済産業省が「クール・ジャパン室」を設置し、「クール・ジャパン戦略」が日本の国策と位置付けられてきた。

 

筆者自身は世の中から敬遠されてきたオタクが支えてきたアニメ文化が持ち上げられている点には、若干の違和感を覚えるところもある。また、オタクの消費心理などが十分に考慮されないまま運営され、クール・ジャパンという言葉自体がお飾りに過ぎないような印象を受けることもある。しかし、本ランキングからもわかる通り、日本のアニメやそれを取り巻く文化は日本を代表するコンテンツとなっており、海外の消費者が日本に対して「クール」と感じてる起因となっていることは確かである。

※ もちろん映画・音楽・漫画・アニメ・ドラマなどのポップカルチャーやゲームなどといった、日本のサブカルチャーなどのコンテンツを指す場合以外にも、食文化・ファッション・現代アート・建築といった、日本の現代のハイカルチャーを指す場合もある。一方で、日本の武士道に由来する武道、伝統的な日本料理・茶道・華道・日本舞踊など、日本の伝統文化のコンテンツを指す場合もある。

 

また、日本のアニメ作品が、他の日本文化に興味をもつきっかけにもなっている。言い換えればクールジャパンという言葉が提唱されてから約20年がたった今でも、サブカルチャーが日本に対する興味への入り口となっているのである。今回のランキングの様に、ただ「海外で人気のJ-POPはこれなんだ」と認識するのではなく、なぜこの曲が聞かれているのか、消費されているのかという点まで深堀りすることが、海外から見た日本を理解するうえで重要な視点であると筆者は考える。

 

 

廣瀨 涼

ニッセイ基礎研究所