「正論」はこらえ、伝えたいことを事前に整理
例えば、30名のクラスで、本来なら15番くらいをとらないといけない能力のある子どもが、この時期のテストで28番だったとします。テストのときに勢いがなかったのか、何かの原因で単元がうまく正解できていないのか、力が発揮できなかった理由はいろいろあると思います。
誰よりも一番ショックを受けているのは、受験生本人です。入試本番を翌月に控えた12月のタイミングで、この子どもに向かって「平均を目指せ」とか「これまで以上に解き直しに力を入れろ」というような姿勢で話をしても、決してプラスにはなりません。プラスどころかマイナスです。
こういう場合、講師の立場なら「まあ、あとクラスで4〜5人抜いて、下から3分の2ぐらいのところにでも上がろうよ。まず目の前の10点を上げることに取り組もう」と、このような位置づけで話をします。
ところが、ご両親にありがちなのは「いや、灘中に余裕を持って合格するには、クラスの3分の1以上にいないといけない。いま28番だけど10番を目指しなさい」と、変化球を使わずに、まっすぐに正論を子どもにぶつけてしまうことです。
たしかに正しい意見ですし、保護者の必死な思いもわかります。しかし、入試前にこのような正論を振りかざされたら、子どもは気詰まりするばかりです。結果、やる気をそがれてしまうこともあれば、自信を失う子どももいますし、子どものほうが感情的になって親と衝突するケースもあるでしょう。
親子で興奮してしまえば、入試の追い込みという大事な時期に無駄な時間を過ごすことになります。それが世で言う正論であったとしても、親が頭ごなしに子どもに自分の考えをぶつけると、どうしても感情的になってしまいます。
入試前は特に、親が子どもに伝えたいことを事前に整理したうえで、話す前にもう一度、頭の中で復唱してから、あるいは紙に一度書いてみてから、口にしてください。そうすることで親の声が子どもに届きやすくなります。
また、もし子どもにあえて厳しいことを伝えたいのなら、その後の勉強への勢いが何倍にもなるような言い方が必要でしょう。
例えば、家庭学習でバツが多く、本人が少しイライラしているときは、「腐らずに直しができている」ことを称賛し、「(春や夏に比べると)解答を見てすぐに直しができるスピードこそが成長の証だ」と言ってあげてほしいのです。
受験生にとって「親は心強い味方である」というメッセージを伝えてから、受験生に一番アドバイスしたいことである「直し勉強がしっかりできても、入試本番では1回で正解しなければいけないのだ」ということを強調すると、受験生も聞く耳を持つだろうと思います。
橋本 憲一
浜学園
学園長