統計を見ると、2020年の非正規雇用は10年前の2.5倍となっています。雇用問題から派生する中高年のひきこもりという問題は、もはや他人事ではありません。ここでは臨床心理士の桝田智彦氏が、「中高年のひきこもりの実態」に迫っていきます。 ※本連載は、書籍『中高年がひきこもる理由』(青春出版社)より一部を抜粋・再編集したものです。
「高学歴・高収入」から転がり落ち…中高年ひきこもりの悲惨な実態 ※画像はイメージです/PIXTA

さらに追い込まれ…「高度なスキル」の持ち主の下り坂

問題はこのような過程で孤立に追い込まれ、以前は自分のなかにあった自己肯定感も、社会に認められている感覚も両方を削られていき、アイデンティティが完全に崩壊してしまうことだと思います。

 

つまり、パート先で年下の上司に小突かれつづけたり、何度も面接で落とされたりしているうちに、「自分は自分でいい」という自己肯定感は低下していきます。しかも、無職になってしまったことで、「そんな自分でいいと社会に認められている」という確信は当然のこととして、徐々にゼロに近い状態に陥るでしょう。

 

自己肯定感も、社会的に認められている感覚も両方を失い、生きるための「土台」であるアイデンティティが崩壊してしまったとき、人は絶望し、ひきこもらざるをえないのだと思います。

 

最近の高齢化にともない、親の介護のためにやむをえず都会の会社を辞めて、Uターンをする人たちも増えています。そのような人たちはたいてい、自分のスキルをもってすれば、郷里でも仕事がみつかるだろうと思っています。

 

ところが、地方の雇用状況は都市部よりもさらに厳しいですし、とくにハイスペックな人たちを雇うような会社は、地方へ行けば行くほど少なくなります。

 

「それならインターネットを介して、アウトソーシングで仕事をすればいい」と言うかもしれませんが、収入は桁違いに少なくなってしまいます。

 

高学歴で高収入、順風満帆の人生をこれまで送っていた方でも、そして、高度なスキルの持ち主であっても、親の介護のために、いたしかたなく会社を辞めると、その瞬間から、下り坂の人生が始まる可能性が非常に高いわけです。

 

たとえ、高度なスキルの持ち主であっても。いえ、高度なスキルの持ち主であればよけいにそうなのかもしれません……。

 

こうしてみていくと、中高年ひきこもりは、誰にでも起こる可能性があると言っても決して大げさではないのです。

 

 

桝田 智彦

臨床心理士