統計を見ると、2020年の非正規雇用は10年前の2.5倍となっています。雇用問題から派生する中高年のひきこもりという問題は、もはや他人事ではありません。ここでは臨床心理士の桝田智彦氏が、あらゆる視点から「中高年のひきこもりの実像」に迫っていきます。 ※本連載は、書籍『中高年がひきこもる理由』(青春出版社)より一部を抜粋・再編集したものです。
パワハラや介護で退職…社会から外された「中高年ひきこもり」の悲惨 ※画像はイメージです/PIXTA

つまり、「不安定さ」がひきこもりに繋がるワケは…

アイデンティティは「自分が自分でいい、そして社会からもそんな自分(あなた)でいいと思われているであろう確信」でした。これはまた、人が青年期以降を生きていくうえでの「土台」のようなものだと、私は思います。

 

アイデンティティという名の土台が堅固であれば、社会に出たときも、多少の困難に遭遇しても揺らぐことなく、安定して立っていられます。しかし、それが脆弱だと、衝撃を受けたとき、たとえそれが小さなものであっても、土台が揺らぎだし、その上に立っている人間もグラグラと揺れてしまうでしょう。

 

このような不安定な状態のまま外へ出ていくのは大きな不安と恐怖を伴うので、家に閉じこもってしまう……。ひきこもりがアイデンティティを獲得できていない状態(これを「アイデンティティの拡散状態」と言います)にあるというのは、そういう意味なのです。

 

 

桝田 智彦

臨床心理士