統計を見ると、2020年の非正規雇用は10年前の2.5倍となっています。雇用問題から派生する中高年のひきこもりという問題は、もはや他人事ではありません。ここでは臨床心理士の桝田智彦氏が、あらゆる視点から「中高年のひきこもりの実像」に迫っていきます。 ※本連載は、書籍『中高年がひきこもる理由』(青春出版社)より一部を抜粋・再編集したものです。
パワハラや介護で退職…社会から外された「中高年ひきこもり」の悲惨 ※画像はイメージです/PIXTA

「アイデンティティの強さ」に自信のない人は要注意

中高年のひきこもりは2つのタイプに分けられるいっぽうで、タイプを問わず、ひきこもる方々に共通して見られることがあります。「アイデンティティの脆弱(ぜいじゃく)さ、曖昧(あいまい)さ」です。

 

若年であれ、中高年であれ、また、ひきこもってしまったおもな要因が本人の資質や性向に帰するものであれ、あるいは、雇用問題などの社会問題の反映であれ、ひきこもっている方々のほとんどが、アイデンティティが脆弱で曖昧な状態にあるのです。

 

では、そもそもアイデンティティとはなんなのでしょうか──。

 

「アイデンティティ」には「自我同一性」という日本語があてられています。

 

米国の心理学者で、精神分析研究家のエリク・H・エリクソンが1950年代に提唱した概念で、現在ではこの言葉が広く知られるいっぽうで、非常に多岐にわたる概念となっていますので、ここでわかりやすく定義し、要約しておきましょう。

 

アイデンティティとは「自分が自分でいい、そして社会からもそんな自分(あなた)でいいと思われているであろう確信」を意味します。

 

つまり、アイデンティティは2つの要素から成っていて、1つが「自分が自分でいい」という感覚で、これは「自己肯定感」と言いかえることができます。そして、あとの1つが、社会からも「そんなあなたでいい」と思われているであろうという確信です。

 

前者の自己肯定感では、自分が自分に対して「主観的に」許可を出している状態なのに対して、後者は社会との相互関係のなかで、自分が容認されているという感覚を指し、「社会的に認められている私」という感覚が持てる状態と言えるでしょう。

 

多くの場合、この2つはたがいに連動し、あるいは、補完しあう関係にあります。

 

社会的に自分が認められているという感覚が高まると、自己肯定感も強化されますし、逆に、社会的に認められているという感覚が低ければ、自己肯定感もそれにつれて低くなりがちです。

 

具体的には、たとえば、望む仕事に就けたことで、社会に認められているという確信が高まると、多くの人たちは自己肯定感も高まりますし、会社を解雇されて無職の状態が長く続いたりすれば、社会から認められている自分という感覚が曖昧になり、そのことによって、それまでは高かった自己肯定感が低下する人も多いでしょう。

 

また、たとえ会社を解雇されて、社会から認められているという感覚が低下しても、もともと自己肯定感の高い人では、アイデンティティが崩壊しないですむかもしれません。つまり、会社をクビになっても、自分の人間の価値は変わらないぞ、と思えるわけです。