新型コロナウイルス感染拡大の影響で、教育現場ではリモート授業の導入が進んでいます。本記事では、慶應義塾普通部、東京海洋大学、早稲田大学等で非常勤講師をしながら「海外教育」の研究を続ける、本柳とみ子氏の著書『日本人教師が見たオーストラリアの学校 コアラの国の教育レシピ』より一部を抜粋・再編集し、コロナ禍以前からリモート授業を積極的に取り入れていた、教育先進国である「オーストラリア」の教育現場について紹介していきます。
「冗談でしょう!」オーストラリアの教師が驚愕した日本の学校事情【教育学博士の実録】 (※写真はイメージです/PIXTA)

日本にあって、オーストラリアの学校にはない教育活動

日本の学校にあって、オーストラリアの学校にはない教育活動の一つに家庭訪問がある。

 

オーストラリアの教師に、日本では担任が生徒の家を一軒ずつ訪問すると言ったら、「ノー・ウェイ!(冗談でしょう!)」と言って目を丸くした。

 

家庭訪問の目的は、自宅の位置や通学路の安全を確認する、家庭環境を把握する、家庭生活の様子を知ることなどだ。学校での様子を保護者に伝えたり、保護者から家庭での様子を聞いたりもする。それらは個人面談でもできるが、場面が違うと気持ちも違う。学校では言いにくいことが、家庭だと安心して言えることもある。

 

また、面談に来る保護者は圧倒的に母親だが、家庭だと父親や祖父母、兄弟姉妹などに会うこともある。貴重な出会いだ。

 

だが、家庭訪問には賛否両論ある。まず、プライバシーの問題だ。学校は家庭というプライバシーに踏み込むべきではないという考えがある。

家庭訪問がなければ楽なことは確かだが…

次に、教師や保護者の負担の問題だ。教師は保護者の都合を聞き、日程スケジュールを立て、限られた期間に生徒の家すべてを訪問する。時間通りに回るのは難しいし、体力的にもきつい。

 

家庭訪問がなければ楽なことは確かだ。迎える保護者にとっても、仕事や家事のスケジュールを調整するのは面倒だ。ただ、私自身について言えば、家庭訪問で把握した情報は、生徒の指導にとても役立った。保護者も学校での面談よりリラックスしている様子で、本音をかなり伝えてくれた。

 

祖父母からも貴重なお話を聞かせてもらった。家庭訪問は大変だったが、有意義だった。自転車で家々を回っている最中に夕立に遭い、びしょ濡れになったことが懐かしく思い出される。

 

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教育学博士
本柳 とみ子


公立中学校で26年間教鞭をとったあと、大学院で海外の教育について研究を始める。その後、慶應義塾普通部、東京海洋大学、早稲田大学等で非常勤講師をしながら研究を続ける。2012年、早稲田大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育学)