中高年のひきこもりという、命にも関わる深刻な社会問題。ここでは臨床心理士の桝田智彦氏が2018年12月に内閣府がはじめて40歳~64歳の5000世帯の男女を対象に行った実態調査、『生活状況に関する調査』に基づいて、「中高年ひきこもりの現状」に迫っていきます。 ※本連載は、書籍『中高年がひきこもる理由』(青春出版社)より一部を抜粋・再編集したものです。
「ひきこもり」は「氷河期世代の男性が圧倒的に多い」という実態 ※※画像はイメージです/PIXTA

就職・進学を希望するか?という質問の「異様な数字」

◆暮らし向き

 

ひきこもりの方々の暮らし向きについては、どうでしょうか。

 

調査項目のなかに、生活水準を自分の実感で答える項目があります。ひきこもっている方々のなかでは「中」と答えた人が66.0%でもっとも多く、「下」は31.9%です。

 

これに対して、ひきこもりでない人たちでは、「中」が78.2%で、「下」が16.7%です。ひきこもりの人たちはそうでない人に比べて、生活水準が低い状態にあることが読みとれます。

 

とはいえ、ひきこもりの方でも、自分を中流と感じている人が6割以上もいるではないか……と、思われた方もいるかもしれません。

 

そこで、「中」をさらに上、中、下に分けて見ていくと、「中の上」と答えた人(8.5%)よりも、「中の中」(34.0%)、「中の下」(23.4%)の人が圧倒的多数を占めているのです。中であっても、「下に近い中」と感じている方が比較的多くいることがわかります。

 

さらに「どのように生計を立てているのか」も見てみましょう。「本人」と答えた人が29.8%、「父親」が21.3%、「母親」が12.8%、そして、「配偶者」が17%でした。

 

ひきこもっている本人がなぜ生計を担うことができるのか。これはおそらく、貯金や親の遺産を切りくずしながら生活をしているからだと考えられます。

 

◆ひきこもるきっかけ

 

ひきこもったきっかけをたずねた質問(複数回答)では、「退職したこと」が36.2%で最多でした。次いで、「人間関係がうまくいかなかったこと」と「病気」がともに21.3%、そして、「職場になじめなかった」の19.1%と続きます。

 

やはり、仕事をなくしたと同時にひきこもってしまうというのが、中高年のひきこもりには多いことがうかがえます。

 

◆将来について

 

最後にご紹介したいのが、「就職・進学を希望するか」という質問への答えです。

 

「希望していない」の回答が60.9%にもおよびました。これはかなり異様な数字です。就職先で傷つけられた体験などから、疲れはて、社会そのものに希望を失って、今ではもうすっかり諦め、仕事を探す意欲もわかない人たちが数多くいることを、この数字は物語っているのだと思います。

 

ひきこもっている中高年の方々は今のところ、政治や福祉政策によっても救われることのない経済的弱者であるとも考えられ、中高年のひきこもりは個人の性格や資質や自己責任といった問題以上に、国の経済政策をはじめとする社会的要因、環境的な要因が大きく作用しているのです。

 

 

桝田 智彦

臨床心理士