中高年のひきこもりという、命にも関わる深刻な社会問題。ここでは臨床心理士の桝田智彦氏が「セルフネグレクト」と「8050問題」について解説し、ひきこもりの実情を紐解いていきます。 ※本連載は、書籍『中高年がひきこもる理由』(青春出版社)より一部を抜粋・再編集したものです。
20代~50代の「孤独死」割合に衝撃…「親が亡くなった後」の残酷 ※※画像はイメージです/PIXTA

親が死んだら…「生活保護費に頼るのも厳しい」ワケ

中高年ひきこもりの抱える問題として、避けて通れないものが、もうひとつあります。

 

それが、「8050(はちまるごーまる)問題」です。長期化するひきこもりによって、ひきこもりの方々を支える親が80代になり、その80代の親の年金で50代の子どもを支えていかなければならないというのが、この問題の中心的テーマと言えます。

 

ひきこもりの長期化と高齢化は、現在も進行中です。このままでは「9060問題」になるのも時間の問題でしょう。そのため、「8050問題」はきわめて深刻な社会問題となっているのです。

 

さらに深刻なのは、親が亡くなったあと、ひとり残された子どもが、収入が途絶えて、餓死する可能性がある点でしょう。

 

内閣府が行った中高年のひきこもりの実態調査によると、40歳~64歳のひきこもりの推計数が61万3000人。そのうち、生計を立てているのが、ひきこもっている「本人」が約30%で、「父親」が約20%、「母親」が約13%です。「父親」と「母親」を足すと約33%。つまり、ひきこもりの実に3割強の人たちが親の収入に頼っていることになります。

 

この3割強の方々の一番の不安は、言うまでもなく親が亡くなったあとの生活でしょう。親の収入が途絶えてしまったら、どうやって食べていけばいいのか……。本人だけでなく、当然、親御さんたちの最大の不安でもあり、カウンセリングにおみえになる70代、80代の親御さんたちもその多くが「私が亡くなったあと、子どもがどうなるのか。それを考えると、夜も眠れません」と、不安を訴えられます。

 

親が亡くなって、年金という収入が途絶えれば、生活保護などの社会保障に頼ることもできそうですが、最近では、国も地方自治体もこれまでにないほど生活保護費の削減に「熱心に」取り組んでいるように感じます。生活保護の受給許可が下りるのは、税収の低い地方自治体ではかなり厳しいのが現状です。

 

収入がゼロとなり、ひきこもりで働くこともできないし、たとえ、働きたいという気持ちがあっても「50歳の壁」に阻まれるなどして、中高年の方たちが就職先をみつけることは至難の業と言えます。