親まで「命の危機に直面」し得る
生活保護も受けられない、仕事も見つからないとなれば、どうなるのでしょう。収入は完全に途絶えてしまいます。そうなれば、当然のこととして、お米も買えなくなり、最終的には餓死するしかありません。この点から見ても、「ひきこもりは人が生きていけるか、いけないかの問題」であり「命の問題」なのです。
このようなお話をすると、餓死するほどの状況になるまえに誰かに相談したり、助けを求めることはできないのか──。そう考える方もいるでしょう。それができないことが、中高年のひきこもりの抱えるさらなる問題です。
ひきこもりが長期化すればするほど、社会とのつながりは失われていき、社会での行き場も、居場所もなくなって情報からも隔絶され、孤立していきます。孤立し、孤独のなかでやっと生きているひきこもりの人たちは、生きるか死ぬかというときにも相談したり、助けを求めたりする友人も、親戚の人たちもいないのです。
ひきこもっている当人だけでなく、親もまた命の危険に直面する可能性もあります。
70代、80代ともなれば、病気で倒れたり、要介護になったりする可能性も高まります。そうなったときには、年金から医療費や介護費を捻出すればいいわけですが、ひきこもりの子どもの生活費も年金で賄(まかな)っているわけですから、金銭的な余裕がなく、病院へも行けず、介護サービスも受けられないまま、親子が共倒れするケースも現に起きているのです。
2018年3月5日付けの北海道新聞が「母と娘、孤立の末に札幌のアパートに2遺体82歳と引きこもりの52歳「8050問題」支援急務」として、ひきこもる中高年とその親が孤立死したという事件を伝えました。
親子ともに社会福祉にも医療にも繋がりがなく、前年12月の中旬に母親が、同年末に娘さんが低栄養状態による低体温症で亡くなるという痛ましいものです。これは氷山の一角に過ぎず、今後、支援策を整備しなければ同様の孤立死は増え続けるものと思われます。
これらのことからも「8050問題」はひきこもりの本人にとっても深刻であり、それだけではなく、親をも巻き込みかねない大問題なのです。また、親が子のひきこもりを隠してしまうことで、子の命も巻き込みかねない大問題であることもあわせてお伝えしておきます。
桝田 智彦
臨床心理士