私たちの日常生活には「交渉」が溢れている
一般的には交渉は別組織あるいは個人と契約を締結するために行うものをイメージされがちです。ただ、それだけが交渉というわけではありません。
もう少し広義の視点で考えれば、社内の他部署、上司、部下、同僚との関係でも交渉は存在します。契約締結は前提としてはいないものの、交渉めいたことは日々の仕事の中で展開されているのではないでしょうか?
例えば社内の他部署と、「この業務はおたくの部の担当範囲なのでは?」「いやいやそれはそちらで担当してもらわないと困ります」などのやり取りは日常茶飯事です。
上司と部下では、「A君今週中に本件の事業方針をまとめ、私に報告してくれないか?」「部長、生憎今週はB社に別のレポートを催促されています。それが完了してから事業方針のまとめに取り掛かってもいいでしょうか?」
同僚との間では、「今度来日するお客様とのやり取りは私がやるから、ホテルと車の手配はあなたが担当してくれない?」「いやいや私の方は今週C社の案件で手一杯なのでDさんに頼んでもらえませんか?」等々日々交わされるこのような会話も交渉的な要素を必ず含んでいるとは思いませんか?
またプライベートでは、家を借りる、土地を買って家を建てる、ご近所さんとの利害調整、遺産相続の際の親族間の利害調整なども立派な交渉と言えます。
交渉の結果は「勝ち負け」で判断するべきではない
交渉の結果が勝ち負けで判断される場合、交渉妥結後のいい関係は決して長続きしません。交渉過程で交渉相手が自分あるいは自社に対し悪い感情を持ったらどうなるでしょうか?
「今回の交渉ではやられたから、そのうちいつかやり返してやる!」という強い恨みに似た感情が相手に残っているとしたら、仮に当初の事業でなんとか目論んでいた成果を得られたとしても、その後の協力関係が上手くいかなくなってギクシャクし、関係が徐々に形骸化し、最後は崩壊してしまうものです。
確かに、世の中にはそういう勝負事のような交渉によってビジネス関係を構築しては壊し、相手を変えながらそれを繰り返していくようなスタイルのビジネスパーソンもいます。
私も何人かそのようなオーナー経営者を目の当たりにしましたが、時間が経つといつの間にか業界から消えていくことが常でした。
真っ当なビジネスを目指すのであれば、交渉によって構築された関係はあくまでも継続を前提とし、将来的に何度もお互いにリターンを得られるような協力関係を目指すべきなのです。
もちろん交渉の中には将来的な関係断絶を前提に臨まなくてはならないたぐいの交渉もあります。交渉相手が理不尽にこちらに損失をなすりつけようとしてくる場合や相手のビジネス倫理そのものに問題がある場合などです。但し、頻度としては一生に数度起こるぐらいのものではないかと思われます。
このような交渉への対処法もありますが、これは頻度から言って特殊な交渉という位置づけにすべきで、普遍化するたぐいのものではないと思います 。
******************************************
松永 隆
JFA国際部コンサルタント
1983年 一橋大学法学部卒業。住友商事㈱に20年間勤務。中国、米国、カナダにて海外勤務を経験。帰国後、夢であったサッカー界に転職することを決意。
2004年 公益財団法人日本サッカー協会(JFA)に入局。以後国際部部長、国際部担当部長として勤務。2020年 退職後もJFA国際部コンサルタントとしてサッカー界に関わり続ける。
2021年 広島経済大学 経営学部スポーツ経営学科教授
JFA公認C級ライセンスコーチ、合気道初段。