カナダのマクドナルドへ…かじると「ガリッ」
隣がマクドナルドだった。ほかに店がないのか、レジには数人の列ができていた。働いているのは全員、インド系カナダ人だった。
ラップの朝食セットを頼んだ。ソーセージや野菜を巻いたラップ、ハッシュドポテトが添えられ、脇にコーヒーという写真がメニューには載っていた。これで7.65カナダドル、約742円である。それを受けとり、日当たりのいい暖かそうな席に座り、ラップをかじった。
「ん?」
ガリッとした食感があった。なんだろうか。ラップを開いてみると、そこにもう一枚、ハッシュドポテトが挟まれていた。もちろん、横にはハッシュドポテトが置かれている。つまり朝食セットを頼むと、ハッシュドポテトが2枚ついてくるのだった。このくらいの量がないとカナダ人は満足しないらしい。
以前、カナダでハンバーガーを注文すると、添えられるフライドポテトの量に辟易としたものだった。いくら食べても、その山が低くならないのだ。これを毎日食べているのか……と寒気すら覚えた。あまりに大量のフライドポテトは太る――とやっと気づいた彼らは、ハッシュドポテトになびいていったのかもしれないが、2枚なのである。
空腹だったので、がつがつ食べてしまったが、添えられた2枚目のハッシュドポテトをかじったときは、ウッとなった。日本のマクドナルドの1.5倍ぐらいを平らげたような飽食感が胃から突きあげてくるのだった。
腹をさすりながら助手席に座った。車はホワイトホース市内を、クロンダイク・ハイウェー方向に進んでいた。ハンドルを握る阿部カメラマンが呟くようにいうのだった。
「若い頃は右側通行にすぐ反応したんだけどなぁ。年をとるとやっぱり遅くなる。右側車線、右側車線って何回も自分にいい聞かせないとふっと間違えそうになる」
(大丈夫だろうか)
ふと阿部カメラマンの横顔を見てしまった。自分の年を棚にあげていうのもなんだが、彼も50歳を超えた。なんだか不安なスタートでもあった。
その日はドーソン・シティまで走るつもりだった。めざすのは北極海に面したトゥクトヤクトゥクだが、その手前にイヌビクという街がある。ホワイトホースとイヌビクを結ぶ長いハイウェーのなかで、唯一の街がドーソン・シティだった。
距離は535キロ。運転初日だから、腕慣らしのつもりもあった。
下川 裕治
旅行作家