一生の一度の住宅購入の際し、多くの人は住宅ローンを利用します。無理のない返済プランを立てて借入をするものですが、必ずしも上手くいくとは限りません。そこで本記事では、実際にローンを借りた人じゃないと分からない「思わぬトラブル」を、住宅購入者への取材で明らかにしていきます。43歳、会社員がローン破綻寸前に追い込まれた理由とは?
住宅ローン返済「甘い見通し」で家買う夫婦が直面する、悲惨な事態 ※画像はイメージです/PIXTA

妻の退職で共働きを前提としたローン返済プランが崩壊

Aさんと同じ返済条件だとして前出の調査結果(借入3050万円、返済31.5年)について考えてみると、当初5年の月々の返済額は8万870円、以降は9万4510円になります。Aさん世帯の返済負担は倍近くになり、決して楽なものとは言い難いでしょう。しかしAさんは共働きというアドバンテージから、平均の倍近くのローン返済を選択しました。

 

――近くに住む両親は積極的に子ども(孫)の面倒を見てくれたので、夫婦、どちらもフルタイムで働くことができました。年収も平均以上だったと思いますし、ローンの負担感もあまりなく、繰り上げ返済を考える余裕もありました。ところが3年前、思ってもいなかった事態が起きて、ローン返済が急に苦しくなったんです。

 

想定外の事態とは……Aさんの奥さんの父親が倒れて介護が必要になったのです。

 

奥さんの母親はすでに他界。父親は静岡県で1人暮らしをしていましたが、ある日、脳梗塞で救急搬送。一命は取り留めたものの要介護の状態に。奥さんには兄がいましたが、住まいは九州。東京に呼び寄せることも考えたそうですが、父親は生まれてからずっと静岡県暮らしのため、いまさら故郷を離れたくないということになり、週末ごとに奥さんは静岡に帰る暮らしを送るようになったというのです。

 

平日はフルタイムで働き、土日は静岡に帰省する……ハードな日常はそんなに続くはずもなく、半年ほどで奥さんは休職、その後、退職の道を辿りました。

 

――お義父さんにはきちんと貯蓄があったので、介護に関してお金の不安はなかったのですが、妻が仕事を辞めたことで、ローン負担は一気に大きくなりました。正直、毎月の家計は火の車です。妻の介護生活はいつまで続くか分からないし、仮に終わったとして、妻が再就職したいと思っても、以前と同じように働けるとも限りませんしね。

 

これから子どもたちの教育費は、中学、高校と進むに従い増えていきます。大学まで視野に入れると、学費だけでも結構な費用です。文部科学省『国立大学等の授業料その他の費用に関する省令』、『私立大学等の令和元年度入学者に係る学生納付金等調査』で大学の学費を見ていくと、初年度、国立大学の納付金は81万7800円、私立大学は文系で117万2582円、理系で154万9688円。4年間では、国公立大学で250万円ほど、私立大学文系で400万円、私立大学理系で550万円程度の費用が必要です。

 

――頭金をもっと払っておけば、もう少し、ローンの負担を減らすことができたはず。そんなことを考えずにマンションを購入したことに関しては後悔ですね。このまま繰り上げ返済できずにいると、完済するのは定年間近。老後のことを考えると貯蓄をしっかりしておきたいですが……。

 

前出の『令和2年度住宅市場動向調査』によると、ローンの負担感について「非常に負担感がある」が10.1%、「少し負担感がある」が59.2%。7割の人が、多かれ少なかれ住宅ローンの返済に負担感を抱いています。

 

住宅ローンは、当初描いていた返済プラン通りに完済する人もいれば、Aさんのように返済プランが大幅に崩れてしまう人もいます。先行き不透明な時代。不測の事態も想定した無理のない返済プランを組み立てることが、後悔のないマンション購入のポイントだといえそうです。