将来の為にも、人を傷つける嘘は見すごさない
■自己防衛のための嘘が孤立を生む
時々、まったくあるはずのない嘘をついてしまう子がいます。これは、防衛本能が強くなりすぎてしまっているサインです。そういうときは「本当はこう思っていたんだよね」と伝えるだけでなく、「こう言ってほしかったな」とことばを添えるようにしています。
防衛で嘘をつくクセを持ったまま大きくなってしまった子の話を、ひとつ例にあげます。高校生の女の子が、クラスで「仲良しのあの子は、あなたのことをこう言っていたよ」と嘘をつくそうです。
その子は、そうして仲たがいさせたあと、その子と仲良くなりたかったようなのですが、言われてしまった子は、「こう言われていた」ということにショックを受け、またそれが嘘だったことにも傷つき、学校がイヤになってしまうくらいの思いをしてしまいました。
こういった嘘をついてしまう子のご家庭では、親がとても厳しくて「いい子でいなければ」と演じて育ってきたケースが見受けられます。彼女の家庭も、なんでも親が決めてしまい、本人は「夢も何もない」「おかあさんが決めるからわたしにはわからない」という状態だったそうです。
その子は、クラス中のみんながうまくいかなくなるような嘘も言ってしまったため、学校でも孤立してしまいました。この話を聞いたとき、「その子が高校生になる前にとめることはできなかったのだろうか…」と考えさせられたのを覚えています。
親が過剰に心配していることが本人にも伝わって、「自信がない」という状態になってしまったのかもしれません。
そのため、自分の意見を言えなかったり、自分の本心がどこにあるのか言語化できない、選択ができない…ということになってしまったのではないでしょうか。健康的な心を育むことは、小さな頃からの積み重ねです。防衛心が解けないままでは、こういうことにもなってしまうのです。
■もし子どもの根深い嘘が続くようなら、そのときには話をちゃんと聴いてあげることが必要です。
誰しも嘘をついてしまうことはあります。「自分をよく見せたい」という気持ちは、みんなが持っているもの。ですから、そこに寄り添いながら「Bちゃんはこうだったかもしれないね」「相手は『嘘をつかれて、すごく悲しかった』って言っているよ」と、相手の気持ちを通訳してあげたほうがいいでしょう。
「悲しかった」「苦しかった」「つらかった」という感情の動きがわかってようやく、嘘をついた子も「よくなかったんだ」「自分がこの人のことを傷つけてしまったんだ」と気づく経験になります。このように、子どもにとって必要な経験を逃さないようにすることが重要なのです。
小さな頃のことでも、人生にムダなことはひとつもありません。先ほどの嘘をついた高校生の女の子についても、学生のうちに課題と向き合えたことをきっかけに、楽しい高校生活を送れるようになったそうです。