不動産投資に「メリットがある」のは本当だが…
不動産投資には多くのメリットがあります。たとえば、実物資産であることから、株式投資や為替投資のようなペーパー資産と比べると資産価値の変動が比較的少ないこと。
融資を利用することで自己資金以上の投資が可能で、効率的に収益を増やすことができる、いわゆる「レバレッジ効果」が得られること。
管理の手間をあまりかけなくても、長期間安定的な収益を得られること。
さらに、不動産投資の費用により生じた損失を、給与所得などの他の所得との損益通算することで節税効果が得られる場合があること、などです。
よく不動産業者の広告に並べられているこれらの「うたい文句」は、個々に見れば、間違いでもウソでもありません。
しかし、不動産投資からこれらのメリットを得るためには、大前提があります。それは「相場に適した物件を選ぶ」ことです。そして、そのような物件を選ぶには、不動産業者の言いなりではいけないのです。
業者の甘言を信じ込み、勧められるままに手を出して地獄を見た投資家は、昔もいまもあとを絶ちません。不動産会社の社長として幾度も目の当たりにした「地獄の一端」を、ぜひ読者の皆さんに知っていただきたいと思います。
地獄その①…想定通りの家賃収入が得られない!
●現状の家賃は「必ず下がる」と心得よ
すでに入居者がいる中古物件を購入する場合、不動産業者は実際に入居者が支払っている家賃で「家賃収益」や「利回り」のシミュレーションを行います。しかし、その前提の数字に問題があることが多いのです。それは、業者がウソをついているのではなく、「現状の数字が将来も続く」という非現実的な想定をしている、ということです。
家賃が高かったころに入居し、そのまま住んでいる入居者の家賃が、果たして今後も継続するでしょうか?
築20年のアパートに、新築時から住み続けている住人がいるとします。もしこの入居者が退去した場合、同じ家賃設定で新しい入居者を探せるでしょうか。20年経過すれば建物も古びてきますし、周辺には新築の競合物件が建っているかもしれません。立地等の条件にもよりますが、ある程度は家賃を引き下げないと難しいと思われます。つまり、入居者の入れ替わりがあるたび家賃が下がるのは、致し方ないことなのです。
下記の表をご覧下さい。
入居時期により現況家賃にバラツキが出ています。ところが不動産業者によっては、もっとも高い賃料を基準に満室想定家賃収入を想定します。しかし「賃料は下がるもの」という前提に立つなら、もっとも低い賃料を想定して収益を想定するべきなのです。
表の場合は、両者の家賃収入の差額は月額5万7,000円、年額68万4,000円です。仮に求めたい利回りが8%だとすると、
68万4,000円 ÷ 0.08 = 855万円
となり、物件価格に855万円の差が生じるのです。
●時間の経過とともに、稼働率も下がっていく
また、物件の購入時点で、すべての部屋に入居がある「稼働率100%」の状態だったとしても、それが今後も続く保証はありません。やはり築年が古くなるにつれ、退去後に新しい入居者が入るまでの空室期間が長くなるのが普通です。しかし、不動産業者のシミュレーションでは、その空室期間が考慮されないこともしばしばあります。
将来もずっと稼働率100%などまずありえませんし、仮に95%だとしても、相当恵まれた物件です。稼働率は90%程度を想定するなど、現実に近い数値でのシミュレーションが必要です。
●適正な家賃&稼働率でシミュレーションをやり直す
多くの場合、物件購入から時間が経つほど、家賃の引き下げと稼働率の低下で家賃収入は低下します。それに対し、不動産業者のシミュレーションでは値下げが考慮されず、新築時の家賃が続く前提となっていることがよくあります。
業者の基準で計算・物件購入してしまうと、想定外の低収入となって赤字続き…という、悲惨な状況になりかねません。
それを防ぐには、賃料の減額や稼働率の減少を見込んだ適正な数値でシミュレーションし、その上でなお収益が上がる物件かどうかを見極める必要があります。
地獄その②…想定外の「大きな支出」が止まらない!
●機械設備の修繕費に「数百万円単位」の出費が…
建物は年月が経てば劣化するため、そのたびに修繕する必要があります。修繕費用の発生時期は必ずしも明確ではありませんが、とはいえ、避けて通ることはできません。
とくに注意が必要なのは、RC造のマンション等の比較的大規模な物件です。このような物件ではエレベーターや給水ポンプ、受水槽などの機械設備が存在しますが、これらは常に故障の可能性をはらんでいます。そして万一故障すると、その修理には数十万円から百万円という高額な修理費がかかります。
さらに、築30年以上といった築古物件では、設備の修理をしようにも型が古すぎ、メーカーに部品がないこともあります。すると、機械そのものの入れ替えが必要になります。エレベーターを丸ごと交換する場合は数百万円、場合によっては1,000万円以上になることもあります。
その他、屋上の劣化による雨水の浸水や、排水管や受水槽の劣化による水汚れ、水漏れトラブルなどで多額の修繕費が発生します。
●不動産会社は「将来の修繕」の説明をしない!
上記で述べた修繕費用は、不動産業者の収益シミュレーションに記載されていないのが通例です。法律上、修繕費用を明示する義務はないため、記載がなくても違法ではありません。
さらにいうと、一般的に売り手に課されている「瑕疵担保責任」が、売買契約において免除とされているケースもよくあります。その場合、極論すると、物件を買った翌日に修繕が必要な不具合が発覚しても、売り手の不動産業者には一切責任が問えないことになります。
このような点について、不動産業者が何も情報を出さないため、購入後に予想外の高額な出費が続いて大赤字となってしまうこともあります。
地獄その③…損切りしたくても「買い手」がつかない!
多くの投資家は、不動産業者が提示する「黒字シミュレーション」を信じ、言い値で物件を購入してしまいます。しかし実際には、シミュレーションのように収益が出ない、想定外の出費がかさむ…といったことにより、示されていた利回りが得られないケースばかりか、場合によっては、マイナス利回りになることさえあります。
物件購入から2~3年経過し、「これはマズい!」と気づいたとき、多くの投資家は、売却して投資金額だけでも回収して撤退しようと考えます。ところが、いくら売ろうとしても、なかなか売れないのです。
なぜなら、①や②で見たような状況も含め、実際の収益性で算定した適正価格より高く購入しているからです。たとえるなら、相場価格7,000万円の物件を1億円で購入したようなものです。
たとえば、1,000万円の自己資金と9,000万円の融資で、1億円の物件を購入していたとします。融資条件にもよりますが、2~3年の返済では、おそらく元本もあまり減っていないはずです。
仮に、元本が1,000万円減、融資残額が8,000万円だとしましょう。ところがこの物件の相場は、購入時からまったく下がっていないと仮定しても7,000万円程度だと考えられます。銀行の抵当権を外してもらうには、残額の8,000万円を一括で支払わなければなりません。つまり、もし7,000万円で買ってくれる買い手が現れても、さらに1,000万円の自己資金を用意しなければならないのです。
しかし、そもそも自己資金1,000万円で不動産投資をして、さらに毎年の収支が赤字だった人が、さらに1,000万円の追銭を支払うことはできるのでしょうか。正直、現実的な話ではないでしょう。
そう考えると、毎年垂れ流す赤字を自分の給与などから補填して、保有し続けるしかありません。まさに「持って赤字、売って赤字」地獄が延々と続くのです。
不動産投資の成功は「入り口」で決まる
このような「地獄」を避けるには、まず、不動産投資を始める前にリスクを学び、物件を見る目を磨くこと、業者のシミュレーションを鵜呑みにしないことです。そして、少ない自己資金で身の丈以上の投資をしないことも重要です。
想定される収益(希望する利回り)から見て高額過ぎる物件は買わない、また、購入の際には、万一想定外の収益減があったとしても返済を続けられる、余裕を持った返済額の融資金額にしておく。
このような基本を守れば、不動産投資の失敗の多くは避けられます。
不動産投資の世界には、「不動産投資は入り口で決まる」という言葉があります。不適切な物件を買ってしまわないことが、なによりも大切なのです。
冒頭で書いたように、不動産投資は正しいやり方をすれば多くのメリットがあります。ぜひ正しい「入口」を学び、そのメリットを享受してください。
オスカーキャピタル株式会社
代表取締役社長 金田大介