減価償却の計算は「区分計上」と「耐用年数」が重要
「減価償却費」でもう一つの大事なポイントは、取得した物件が中古資産だった場合の減価償却費の計上方法です。通常用いられる簡便法で考えてみましょう。たとえば築10年のRC造マンションを購入した時の躯体、設備それぞれの耐用年数は
躯体:47年-10年+10年×20%=39年
設備:15年-10年+10年×20%=7年
となり、新築の場合よりも耐用年数は短くなります。目先の節税には非常に効果があるのです。
ここで大切なのは、中古不動産を取得した初年度の確定申告において誤って耐用年数を計上してしまうと、後に正しい数値にやり直す(更正の請求)手続きはできないということです。
平成26年、国税不服審判所(国税庁に設置される特別機関)に、ある税理士から請求がされました。自身で中古の賃貸不動産を購入したところ、建物の耐用年数を法定耐用年数で申告してしまったというのです。そこで誤った申告をしてしまったと、更生の請求を行いました。
これに対し「更生すべき理由がない」と、簡便法による中古資産の耐用年数に訂正することはできないと、判断が下されました。そもそも更正の請求という納税者が有利になるように確定申告をやり直すことは
課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていないかったこと又は当該計算に誤りがあったこと(国税通則法第23条第1項より)
というのが要件で「間違い」がなければできません。中古の耐用年数を採用していないことは「間違い」に当たらないという解釈になっているのです。税理士のような税のプロでもミスが目立つ項目なので、耐用年数の選定は慎重かつ正確に行う必要があります。
このように不動産投資において、減価償却の計算では、① 躯体と設備に区分して計上する ② 中古資産の耐用年数を正しく選定する と2つのポイントがあります。ではこれらを間違えると、どれくらいの差が生じるのでしょうか。
東京都の平均年収612万円の独身サラリーマン(所得税・復興特別所得税・住民税合わせた税率が30.42%)が、築10年のワンルームマンション(建物価格2000万円、年初に購入)に投資した場合を例にして考えてみます。
まず躯体70%、設備30%と仮定すると、正しい計算は以下のようになります。
躯体:2000万円×0.7×0.026=36万4000円
設備:2000万円×0.3×0.143(耐用年数7年の償却率)=85万8000円
合計:52万円+85万8000円=137万8000円
137万8000円×0.3042(税率)=41万9187円
まず区分計上していない場合、
2000万円×0.026(耐用年数39年の償却率)=52万円
52万円×0.3042(税率)=15万8184円
その差額は「41万9187円-15万8184円=26万1003円」となります。
次に中古資産の耐用年数を間違えた場合を見てみましょう。
躯体:2000万円×0.7×0.022(耐用年数47年の償却率)=30万8000円
設備:2000万円×0.3×0.067(耐用年数15年の償却率)=40万2000円
合計:71万円×0.3042(税率)21万5982円
その差額は「41万9187円-21万5982円=20万3205円」となります。
では、区分計上もせず、耐用年数も間違えた場合はどうなるのでしょうか。
2000万円×0.022=44万円
44万円×0.3042=13万3848円
その差額は「41万9187円-13万3848円=28万5339円」となります。
このように、最大で28万5339円も目先の節税額が減少してしまうことになるのです。不動産投資においては購入した年の確定申告が本当に大事です。区分計上と中古資産の耐用年数の計上がいい加減だと、想定通りの税務メリットを享受できなくなってしまうと、十分に心得ておきましょう。
トランス税理士法人
代表税理士
中山慎吾税理士