突き出たお腹を「筋肉です」と言い張る患者の体内構造

巷では多くの健康法が噂されていますが、それらは本当に正しいのでしょうか? 本記事は『110歳まで元気に生きる! 実験オタクなドクターに学ぶ健康長寿のウソ・ホント』(幻冬舎MC)から一部を引用し、内科医である永野正史氏の自ら体をはった検証と、医学的な根拠を解説します。

タンパク質を摂っていれば「筋肉量」は増えるのか?

いくら標準体重であっても筋肉量が少なく、脂肪でその体重を維持している人は、転びやすかったり、心不全を起こしやすかったりして長生きはできません。元気で長生きするには、筋肉量が多いことが有利となります。なぜなら、筋肉量はその人の体力、ひいては生命力を示すものだからです。

 

一般に「筋肉」というときは、体を動かすための骨格筋を指しており、マッチョな人がプロテイン(タンパク質)を摂っているように、筋肉を作るうえでタンパク質は大事な栄養素です。

 

ところが、筋肉もタンパク質なので材料は必要ですが、ただ摂っただけでは筋肉量は増えないのです。脂肪は運動をしなくても増えますが、筋肉は運動で鍛えなければ増えないのです。そうするとマッチョな人は理にかなっていますが、日常的に運動する習慣のない人は、タンパク質を摂っても筋肉量は少ないままです。ここが、一般には知られていないので、特に高齢者は筋肉量が少ないために疲れやすくなったり、踏ん張りが利かなくなったりして転倒しやすくなっています。

 

私はマラソンをするため、速いランナーの中に入ると、まだまだランナー体型には遠いと感じさせられ、体を引き締める必要性を痛感します。

 

そこで、体組成計で自分の体内の状態を確認するようにしています。今は、一般に市販されている体組成計で、体重のほかにも脂肪量、筋肉量、水分量などを正確に測ることができるので、常に計測しているのです。

見るからに肥満だが大真面目に「筋肉です」と言う男性

体組成計は、体に微弱な電流を流し、その抵抗値を計測して脂肪や筋肉率などを推定しています。脂肪は電気をほとんど通しませんが、筋肉や血管など水分の多い組織は電気を通しやすい性質をしています。これを利用して、脂肪とそれ以外の組織の割合を推定しているわけです。

 

私に限らず運動習慣のある人は、意外と体組成を気にするものですが、メタボの人に限って気にしないのです。実際に、私もそうだったのでメタボになりました。

 

先日も、明らかに肥満の人が健康診断にやってきました。ところが、本人に自覚はなく、太っていないと言うのです。突き出ているお腹は何かと訊ねると、真面目な顔で「筋肉です」と答えました。

 

あああ
お腹は突き出ていても、本人に「メタボ」の自覚はなく…

 

脂肪はブヨブヨしていて柔らかく、つまむことができるけれど、自分のお腹はパンパンに張っていてつまめないから筋肉だと主張するわけです。しかし、実際に測ってみると、ほとんどが脂肪でした。冗談と思うかもしれませんが、このような人が意外と多いのです。そして、そう主張するほとんどが男性です。

 

肥満体型は大きく分けて、見るからに柔らかそうな「ぽっちゃり型」と、肉質が固そうで張っている「固太り型」の2種類があります。固太り型は、以前に運動をやっていて止めた人に多く、筋肉組織の間に脂肪が入り込んで「霜降り肉の状態」になっているので固いのです。運動経験がないのに固太り型の場合は、血流が悪いと考えられています。

 

したがって、自分の体ときちんと向き合い、筋肉量が少ないときは運動をして増やす努力をすることが、老化予防につながります。

 

タンパク質を摂っていれば筋肉量は増える!?

→ウソ

 

習慣にしよう!

●転びやすかったり、疲れやすい人は日常的に歩いたりストレッチや筋トレをしたりするなど運動習慣をつけましょう。筋肉量が少ない可能性があります。
●自分の脂肪量や筋肉量を知りましょう。適切な量に改善することが健康につながります。

痩せると酸素摂取量が増えるのか?

私たちは呼吸をすることで体内に酸素を取り入れ、それを利用して糖や脂肪を分解して運動エネルギーを作りだしています。ですから、体内に取り込む酸素量が多いほどエネルギーもたくさん作られ、強度の高い運動をより長く行えるようになります。

 

体に取り込める最大の酸素量を「最大酸素摂取量」といい、これは1分間に体重1kgあたりが取り込める酸素量を指し、自分自身の持久力の指標として用いられています。

 

最大酸素摂取量は、採気用のマスクを着けながらトレッドミルや自転車エルゴメーターで徐々に負荷を上げていき、ある程度の運動強度まで達したとき、それ以上の酸素摂取量の増加が見られなくなった最大の値を測定しています。

 

この測定は簡単に行えるものではなく、専用の機器や専門の人が付いて行う必要があります。私はスポーツメーカーのラボに通っていたとき、2回ほど測定しました。

 

その頃はランニングを始めたばかりでしたので、最大酸素摂取量は40ml/kg/分といたって標準でした。それが、少し体を鍛えた2回目は、体重70kgで48ml/kg/分とやや上がっていました。一方、7年経った現在の最大酸素摂取量は56と、かなり上がっています。

 

ところが、この数字は初期の頃の体重70kgで入力したデータなのです。すでに気づいた人がいるかもしれませんが、最大酸素摂取量は1分間に体重1kgあたりが取り込める酸素量です。つまり、肺の大きさは変わっていないので肺機能は同じとすると、体重が変われば数字も変わってくることになります。

 

例えば、4000㏄の酸素を肺が取り込めるとして、体重100kgの人の最大酸素量は40になります。それが、痩せて50kgになると最大酸素摂取量は80になる計算です。したがって、痩せれば酸素摂取量は増えることになるのです。私の場合も、今は60kg台ですが、体重がさらに減って50kgになれば計算上は最大酸素摂取量が78になります。

 

オリンピックに出場するような選手ともなると、ほとんどが70~80ですから、私も痩せると一流選手並みの酸素摂取量になる可能性があります。したがって痩せれば、単に見かけがスリムになるだけではなく、フィットネスレベルも上がるといえます。

最大酸素摂取量が増えれば、心臓の負担も軽くなる

よくアスリートたちが海外で高地トレーニングを行っています。これは、環境への適応能力を活かし、運動能力向上につなげるためのトレーニング方法※です。

 

高地では、酸素濃度が薄いために人間の体は酸素を取り込みにくくなり、血中の酸素濃度は低下します。そうすると、体は環境に適応した酸素供給能力を確保するために、体内で赤血球数やヘモグロビン濃度を増加させるようになるのです。

 

これにより酸素の運搬能力や筋肉での酸素消費能力が高まり、平地で走ったときにはラクに感じて大きな力を発揮できるようになります。また、筋肉への酸素供給も十分に行われるため、全身持久力とともに筋持久力も向上する効果が期待できるといわれています。

 

酸素摂取量が増えれば当然、心臓への負担も確実に軽くなります。実際に、メタボ時代はクリニックの地下から3階まで階段を上がるのに息切れをしていたのが、現在は一気に駆け上がることができ、脈も乱れることがなくなったのです。

 

さらに、痩せると走る速度も圧倒的に上がります。運動量=質量(m)×速度(V)で求められます。つまり、ⅿ(体重)が小さくなれば、V(速度)は上がるわけで、重くてスピードが出なかったトラックから、軽くて速いスポーツカーに変身するように、体重を減らせば速く走れるようになるのです。

 

走る習慣がない人でも酸素摂取量が増えれば、日常での身のこなしがラクになることで、転倒やケガをするリスクも軽減でき、寝たきりの予防にもつながります。

 

痩せると酸素摂取量が増える!?

→ホント

 

習慣にしよう!

●痩せて酸素摂取量を増やしましょう。持久力が向上してフィットネスレベルが上がるだけではなく、心臓へのダメージも軽減します。動作が身軽になると、転倒したときでもすぐに地面に手をつけるようになり、ケガの防止にもつながります。

 

※参考文献

浅野勝巳・小林寛道(編) 『高所トレーニングの科学』杏林書院

青木純一郎・川初清典・村岡功(編)『高地トレーニングの実践ガイドライン~競技種目別・スポーツ医科学的エビデンス~』市村出版

 

 

 

練馬桜台クリニック 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本腎臓学会 専門医
日本透析学会 専門医・指導医

1958年10月生まれ。1985年に佐賀医科大学卒業後、三井記念病院にて内科研修医、内科腎センター医員を経て、1992年に敬愛病院内科に勤務。1996年に敬愛病院副院長を務めた後、2003年に練馬桜台クリニックを開業(内科・透析・健診)。マラソンは趣味の域を超え、自己ベストは東京マラソン(2014年)にて3時間41分35秒を記録。

著者紹介

連載第一線の医師が検証&解説!超高齢化社会を元気に生きる「本当に正しい健康知識」

110歳まで元気に生きる!実験オタクなドクターに学ぶ健康長寿のウソ・ホント

110歳まで元気に生きる!実験オタクなドクターに学ぶ健康長寿のウソ・ホント

永野 正史

幻冬舎メディアコンサルティング

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