肉を食べ過ぎると血糖値が上がる?
一般に「肉を食べ過ぎると血糖値が上昇して糖尿病のリスクを高めるので、肉を食べ過ぎないようにしたほうがよい」というのはよくいわれることです。
しかし、筆者はこの説に、ケトン食を実践する前から疑問を感じていました。それは、別のクリニックで「糖尿病だからインスリン治療が必要」と診断された患者さんが、「なんとかしてほしい」と、筆者のところに駆け込んできたときの症例があったからです。
その患者さんの血糖値は確かに高く、2型糖尿病と思われました。本人はインスリン治療を嫌がっていたため、とりあえず糖質を極力減らすように食事指導をするとともに、DPP‐4阻害剤を処方して経過観察をすることにしました。
すると、月1回の来院のたびに患者さんは痩せてきて、当初はヘモグロビンA1c(ブドウ糖がヘモグロビンと結びついた状態を示す数値:6.5%以上だと糖尿病と診断される)が10%近くもあったのが、半年後には5.5%にまで下がっていたのです。これには筆者も驚き、一体どんな食事をしていたのか興味津々で訊ねました。
それに対して彼は、筆者のアドバイスにしたがってご飯や麺類などの糖質は食べず、肉ばかりを食べていたといいます。それを聞き、「肉中心の食事にすると本当に痩せるんだ」と軽いショックを受けたものです。
本人に自覚はありませんが、まさにケトン食を摂っていたわけです。結局、その患者さんはインスリン治療の必要はなくなり、太らないようにとアドバイスをして終わりました。そのような経験もあり、筆者も肉を食べ過ぎても血糖値は上がらないか、試してみることにしました。
肉といえばステーキ。さっそく某ステーキハウスに数日通い、400gのステーキを食べ続けたのです。そして、食後血糖値とケトン体の量を測定したところ、血糖値の上昇は見られず、ケトン体の量も以前であれば治療が必要と思うくらいに上昇していましたが、体調は良く、何もトラブルは生じませんでした。
上記の図表は、15時40分、朝昼の食事を糖質抜きにして測定した、血糖値とケトン体値。血糖値は空腹にもかかわらず107とやや高め。ケトン体値は2.6mmol/L と最適なケトンゾーンに入っていました。ケトン体のうち7〜8割を占める「β -ヒドロキシ酪酸」を測定しました。
【参考】
0.1-0.5:セミケトーシス状態(主なエネルギー源として脂肪が体によっ て使われる過程が始まった状態
0.5-3.0:ケトーシス状態(最適なケトンゾーン)
※糖質制限を続けていると、0.4 -1.2の範囲に入ることが多いようです
血糖値やコレステロール値も上がらなかった
つまり、ケトン体が陽性でも、インスリン治療が必要とは限らないわけです。むしろ、肉を食べ過ぎても血糖値が上がることはありません。糖尿病の予防やダイエットに適しているともいえます。また、肉に含まれるタウリンには、血管の収縮を調節したり、膵臓から出るインスリンの分泌を促す働きがある※ことも研究によって分かってきました。
※参考文献:公益財団法人 日本食肉消費総合センター『お肉のあれこれミニ事典』
さらにいえば、肉でコレステロール値が上がるといわれていますが、この数値も上がっていません。もちろん、ダイエットや健康のためには野菜などとともにバランスよく食べることは必要ですが、肉の食べ過ぎによる血糖値の上昇は心配しなくてよいのです。
肉を食べ過ぎると血糖値が上がる!?
→ウソ
●糖質を中心にした食事は血糖値が上がりやすいので、タンパク質を中心とした食事に変えましょう。血糖値の上昇を抑えられるうえ、ダイエット効果も期待できます。
運動後に「血圧が上がる」というのは本当か?
患者さんはよく「今走って来たので血圧が高いんです」と、汗を拭きながら言います。これは日常茶飯事で、運動すると興奮しているので交感神経が優位な状態になり、運動後の血圧は上がっていると多くの人が信じています。これは運動する人たちの常識になっているのではないでしょうか。
そこで、本当に運動後は血圧が上がっているのか、1時間ほどランニングをして、その前後の血圧を測定してみることにしました。
すると、実際には走る前よりも血圧は下がっていたのです。ランニングのたびに測定していましたが、毎回血圧は下がっていました。10㎞前後は走っていたのに、どうして血圧が下がっているのでしょう。
運動後すぐ、筋肉内の血管が収縮するわけではなので…
運動すると興奮状態になって交感神経は優位になるので、心拍数は増え、心臓からは血圧を維持するために必要な血液が送り出されます。運動を中止すると、心拍数は減り始めますが、運動中にはたくさんの血液が筋肉に流れていくので、血管は拡張している状態です。これは、運動を中止したからといって、すぐには筋肉内の血管が収縮するわけではなく、しばらくは拡張した状態が続くからです。
つまり、運動を中止して心拍出量は減少しても、血管は拡張したままなので血流が良くなっており、血圧は低下するというわけです。この血圧の低下が大きいときは、失神することもあります。これを「運動後低血圧」といいます。
お正月に開催される箱根駅伝を見ていると、走ってきたランナーがタスキをつなぐと倒れ込み、スタッフに抱えられていく光景を目にします。これも同じ理由で、レースのゴール直後は、脱水と激しい運動をしていたのが急に止まることで、最も血圧が下がっているのでフラフラになるのです。
身近なところでは、スポーツジムに行って運動したあと、ぐったりして血圧を測っている人をよく見かけます。これも運動後低血圧の状態ですので、血圧が下がっているからと安心するのは危険です。最初に述べた「走ってきた」という患者さんもそうですが、自転車をこいできた人など、何らかの運動をして血圧を測った数値は、通常より低いため日頃はもっと高いということです。
したがって、運動後の血圧測定はお勧めできません。測るなら運動前か、運動後30分~1時間経ってからが良いでしょう。
ちなみに、血圧を下げる要因になるものとして、アルコールにも注意が必要です。
以前、筆者は地方のハーフマラソンに参加するため、新幹線に乗りました。いつもは車で行くのでアルコールは飲めませんが、そのときは安心してゴール直後にビールを飲んでしまいました。その後目の前が真っ白になり、1時間ほどフラフラの状態で立ち上がれなくなったのです。運動に加えてアルコールでさらに血管が拡張し、血圧が下がり過ぎたのが原因でした。
運動後に血圧は上がる!?
→ウソ
●運動後は血圧が下がっているので、体の回復を図るためにもしばらく休む時間を設けましょう。
●運動後に血圧を測る場合は、運動前か30分~1時間後にしましょう。
●アルコールも血管を拡張して血圧を下げるので、運動直後に飲むのは控えましょう。