近年活発化している「M&A」市場。2017年に年間取引数3000件を突破して以降、業況は右肩上がりだ。では、実際にM&Aで「会社を買う」と決めた際、円滑に進めるためには、どのような手順を踏むべきなのだろうか。AI(人工知能)やビッグデータを活用して、企業価値やストックオプション評価などの算定、M&Aの買い手・売り手候補の探索や企業概要書の作成等を行う、VANDDD株式会社の代表取締役・阿部諒馬氏が解説する。

M&A「買い手のプロセス」は大きく4つにわけられる

M&Aの買い手のプロセスは、大きく「探索」「基本合意」「分析・交渉」「交渉・最終合意・取引実行」の4つにわけられます。もちろん、すべての買い手がこの4つのプロセスを通るわけではありません。すでに買収を行う先が決まっているのなら、「探索」は不要ですし、相手と金額も含めた合意ができている場合は「交渉」のプロセスは必要ありません。

 

しかしながら、買収先があらかじめ決まっている場合は少ないでしょうし、「分析」を経ずに買収の諸条件が決まっていることも、通常はあまりないといえます。このため、まずは一般的な4つのプロセスについて、具体的にどのような動きが必要になるかを見ていきましょう。

 

M&A「探索」プロセス

 

「探索」プロセスは、買収先を発掘するプロセスです。通常、買い手となる会社には買いニーズ(自社にとって迅速に強化したい分野・補完したい分野)があり、その買いニーズに合致した売りニーズ(会社の売却意向)が偶然見つかった場合に、M&Aが進行します。この売りニーズを発見する確率を高めるため、買い手は能動的にM&A情報を取得するよう動き出します。

 

具体的には、主に以下の3パターンに分類されます。どれも一長一短がありますので、自社の状況・M&Aの緊急度に応じて「探索」方法を工夫することが重要です。

 

1:ロングリストからの発掘

2:取引先・同業者等からの情報提供

3:仲介会社からの紹介

 

1:ロングリストからの発掘

自社の買いニーズに合致する企業のリストを社内で作成し、その企業に売りニーズがあるかを個別検証していく方法です。一般には公表されていない潜在案件を探すわけですから、根気のいる方法ではありますが、売りニーズが実際に発見された場合は、M&Aを独占的に進めることができ、成功率自体は高くなります。

 

2:取引先・同業者等からの情報提供

昨今は後継者不在の企業が増えており、取引先・同業者等、様々なルートからM&Aの買いを打診されるケースが増加しています。一般には公表されていない潜在案件ではありますが、売りニーズが色々な会社に共有され、M&Aの競合相手がいる可能性があります。

 

3:仲介会社からの紹介

事業承継ニーズの高まりに応じて、M&A仲介会社の数も飛躍的に増加しています。M&A仲介会社は、M&Aの売りニーズの情報をもって、様々な買い手候補に対して提案を行っています。情報を多く保有しているのは仲介会社であるので、自社の買いニーズに合致した企業を発見できる可能性は、1:ロングリストからの発掘、2:取引先・同業者等からの情報提供よりも高いといえます。ただし、仲介会社からの紹介は比較的高額であるため、M&A成功のためにかかる費用総額は高い水準となります。

M&Aの進行を左右する「デュー・ディリジェンス」

M&A「基本合意」プロセス

 

「探索」プロセスで、買いニーズに合致した売りニーズを発見した場合、売り主と今後のM&A成立を目指し、協力して進めていくことに合意する「基本合意」プロセスが必要になります。

 

買い手は今後「分析」プロセスでデュー・ディリジェンス(DD)を行いますが、DDの実施には売り手の協力が必須となります(DDについては次項で説明します)。また、M&Aの価格目線、諸条件についてもおおむね合意しておかないと、今後大きく揉めてしまう可能性があります。

 

このため、「基本合意」プロセスで買い手の意向を表明し、売り手と諸条件を整理することは非常に重要です。なお、「基本合意」プロセスでは、基本合意書の締結は必須ではありません。また、合意する内容についても、ひな型や決まったものはありません。

 

合意内容に法的拘束力を持たせるか、最終的な取引価格を合意するか、価格目線のみを合意するのか、案件に応じた調整が必要となります。なお、「基本合意」プロセスにあたって、いくらで買収するのが妥当か、相手企業に大きな問題はなさそうか、初期的な検討を行っておくことが重要です。

 

M&A「分析」プロセス

 

「分析」プロセスで、買収の対象となる会社に問題がないか、妥当な買収額がどの程度か、「基本合意」プロセスで行った初期的な検討結果が妥当かを詳細に分析します。通常この分析はデュー・ディリジェンスと呼ばれ、DDと略されます。DDは主に、法務DD(弁護士が実施)、財務・税務DD(公認会計士が実施)からなり、案件の性質に応じてビジネスDD、環境DD等が実施されます。最終的な価格は、「分析」プロセスを踏まえて決定される必要があるため、「基本合意」プロセスで取引価格を完全に合意する事例は多くありません。

 

M&A「交渉・最終合意・取引実行」プロセス

 

「交渉・最終合意・取引実行」プロセスでは、基本合意内容にDD発見事項を踏まえて、最終的な取引条件を交渉し、両者で合意します。この際、両者間では法的拘束力のある株式譲渡契約書(SPA)を締結し、SPAの定めに従い、M&A取引を実行します。

 

契約書締結からM&A実行までの間には、通常1ヵ月間程度の期間をあけ、M&A実行前/実行後に必要となる登記、各種手続き、書類手配等を行います。また、買い手は買収後の戦略の組立て等も行います。

 

《まとめ》

本記事では、M&A・事業承継プロセスを特に買い手の視点に立って解説しました。このような流れでプロセスが行われることを踏まえ、M&A・事業承継を検討する一助としてください。ただし、M&Aや事業承継はマニュアル通りに行われるものではなく、個別性が相当強いものです。プロセスの流れに固執せずに適宜変更・省略・追加してアレンジする柔軟さも必要ですので、ご留意ください。

 

 

阿部 諒馬

VANDDD株式会社 代表取締役

 

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