実践的基礎知識マクロ経済編(6)<国際貿易>

ピクテ投信投資顧問株式会社
実践的基礎知識マクロ経済編(6)<国際貿易>

ピクテ投信投資顧問株式会社が、実践的な投資の基礎知識を初心者にもわかりやすく解説します。※本連載は、ピクテ投信投資顧問株式会社が提供するコラムを転載したものです。

国際貿易(自由貿易)

国際貿易を考える上での基本的な概念に「比較優位」という考え方があります。比較優位とは自国の最も得意な財(モノ)の生産に特化し、そうでないものは他国に任せて自由貿易をすれば、自国も貿易相手国もお互いにさらに多くの財を生産でき、双方が貿易の利益を享受できるというものです。

比較優位の考え方

「比較優位」の考え方は自由貿易の前提となるもので、イギリスの経済学者デヴィッド・リカードによって発表された、貿易の大原理です。リカードはアダム・スミスの「国富論」の「絶対優位」に基く自由貿易論を発展させ、「比較優位」による自由貿
易論を唱えました。


比較優位の考え方についてポール・サミュエルソンが説明するときに使ったと言われる「弁護士と秘書」の例を使って紹介します。


弁護士Aは秘書Bよりも、法律業務もできるうえ、PCを使った事務作業も得意ですが、弁護士がPCの事務作業を行うと、その分だけ弁護士報酬という高額な報酬を失うことになり、非常に高額な機会費用になってしまいます。


一方で、秘書Bは弁護士には劣るもののそれなりに事務作業はでき、法律業務はできないために機会費用は弁護士に比べ非常に安くなるため、秘書にはPCの事務作業において比較優位があります。


弁護士は法律業務、秘書は事務作業に特化することで、どちらも効率よくより多くの仕事ができることになり、どちらも恩恵を受けることになります。
 

[図表1]比較優位の考え方
[図表1]比較優位の考え方

絶対優位

リカードは2国間で貿易をすると、実は両方の国にとって非常に有益である、ということを発見しました。例で考えて見ましょう(図表2)。

 

[図表2]絶対優位
[図表2]絶対優位


A国とB国にそれぞれ労働者が200人ずついて、とうもろこしとパソコンをそれぞれ100人ずつで生産しているとします。とうもろこしの生産では、A国は労働者100人で生産量が1,000、一方、B国は労働者100人で生産量は900です。全体のとうもろこしの生産量は合計1,900です。


次にパソコンの生産では、A国は労働者が100人で生産量が500、B国は労働者が100人で生産量が300です。全体のパソコンの生産量は合計800です。


A国は、とうもろこしもパソコンもB国より絶対的に生産効率が良く、とうもろこしの生産もパソコンの生産もA国に「絶対優位」があると表現します。
 

リカード・モデル

とうもろこしもパソコンも、A国のほうがB国よりも「絶対優位」の状態にありますが、こんな風にして見るとどうでしょうか(図表3)。

 

[図表3]リカード・モデル例
[図表3]リカード・モデル例


とうもろこしはA国が100人当たり1,000、B国が900なので、B国はA国の9割の生産力があります。一方、パソコンはA国が100人当たり500に対し、B国は300ですから、B国はA国の6割の生産力しかありません。この場合、A国はB国に対しパソコンの生産で「比較優位」、B国はA国に対しとうもろこしの生産で「比較優位」だということがわかります。


そこで、A国とB国がそれぞれ得意分野に労働力を集中し、足りない分は相手国から輸入するようにします。A国ではとうもろこしの生産を行っていた労働者100人のうち80人を「比較優位」のあるパソコンの生産にシフトし、B国ではパソコンの生産を行っていた労働者100人の全てを「比較優位」のあるとうもろこしの生産にシフトしたとします。

 

すると、A国とB国の生産量の合計はとうもろこし2,000、パソコン900となり、「比較優位」を活かした生産を行い、足りない分は貿易をすることで、とうもろこし、パソコンともに全体の生産量が増えました。


これがリカードが発見した「比較優位」に基く自由貿易論で、国際貿易は双方にとって利益があるという経済理論です。

国際分業

「比較優位」に基く国際分業の例として、今度は自動車産業を例に米国とメキシコを見てみましょう(図表4)。

 

[図表4]比較優位に基く国際分業の例 ※北米自由貿易協定(NAFTA)発効後、95年から2016年までの実質GDP成長率は米国が年率2.3%、メキシコが年率2.4%でした。
[図表4]比較優位に基く国際分業の例
※北米自由貿易協定(NAFTA)発効後、95年から2016年までの実質GDP成長率は米国が年率2.3%、メキシコが年率2.4%でした。


米国は比較優位がある自動車のデザインや設計など高度な専門分野や他の産業に特化します。一方、メキシコは比較優位のある実際の組み立て等の自動車生産に特化します。

 

その結果、米国、メキシコにそれぞれメリットが生まれます。もちろん、他の要因も影響していると考えられますが、NAFTA発効後の約20年間に両国の一人当たり名目GDPは拡大し、双方が豊かになりました。


それぞれの国が比較優位にある産業に特化することで総生産量が増大して両国にメリットがある反面、米国では製造業に就いていた労働者の職がなくなったり、メキシコでは米国
からの農作物の輸入で離農した人々を補うほどは製造業で雇用が創出できていない(米国への移民の増加)等のデメリットもあります。理論のように職を変えることは容易ではないため、全ての人が公平に豊かになると言うわけではなく、あくまで全体論とのことです。

保護貿易

米国のTPP(環太平洋パートナーシップ協定)離脱など、トランプ政権が掲げている貿易政策が保護主義的だと批判を浴びています。保護貿易とは、外国との貿易に際して、自国の産業を保護するために、輸入品に対して高い関税を課したり、輸入数量を制限する貿易政策です。

 

 

ある国が自国の弱い産業を保護するために保護貿易を行うと相手国も報復行動にでることがあり、また、互いに弱い産業では貿易が減ることになり、結果、全体の貿易量が減り、互いに不利益を被ることになります。

 


かつて、世界の国々が共通の通貨を使う自国と植民地の間だけで貿易を行う「ブロック経済」を次々に導入し、その行き着いた先は第2次世界大戦でした。


第2次世界大戦後の世界は、こうした教訓を元に、保護主義的な貿易ではなく、互いに恩恵をもたらす自由貿易を加速する動きを進めてきました。


かつては世界貿易機関(WTO)が中心となっていましたが、現在では個別に自由貿易協定(FTA)を締結したり、さらに貿易以外にも範囲を広げた経済連携協定(EPA)などを締結する動きもあります。
 

 

当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『実践的基礎知識マクロ経済編(6)<国際貿易>』を参照)。

 

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