音楽を愛する人たちのために作られた、24時間楽器演奏可能マンション「ミュージション」は、相場より3割高い賃料でありながら、高い稼働率を保ち続けています。本連載では、書籍『新版 24時間楽器演奏可能マンション「ミュージション」が起こす満室賃貸革命』より一部を抜粋し、賃貸経営を成功に導く満室経営術について解説します。本記事では、音楽家が防音マンションに求める条件について見ていきます。

グランドピアノがきっちり入る面積「28㎡」

◆最高の㎡賃料効率を実現する一部屋28㎡という広さ

 

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本連載第4回で述べたように、ミュージションの間取りは基本的に1Kタイプで、広さは28㎡です(関連記事オシャレさは必要?音楽家が求める「本物のマンション」の姿』参照)。これは最高の㎡賃料効率を得られる広さであると同時に、勉強机兼用のダイニングテーブルとベッドを置いても、グランドピアノがきっちり入る面積でもあります。それまでの楽器可マンションは、通常のワンルームマンション同様、20㎡程度の広さが主流でした。

 

そのため、ピアニストやピアニストの卵たちは、ピアノの下に布団を敷いて寝るのが常識という、快適とはほど遠い状態で暮らしている事も少なくありませんでした。寝て目が覚めたら、ピアノの底が見えるのですから、ものすごい圧迫感だと思います。当時の生活がよっぽど辛かったのでしょう。最初のころのお客さまがミュージションの室内を見て、「もう、グランドピアノの下に寝なくていいですね」と大喜びしていたのを、今でも覚えています。

 

それでも、28㎡というのは、入ってみて「わあ、広い」というほどの印象はないために、オーナーから「せっかくだから、もう少し広くしよう」と提案を受けることもあります。しかし、よっぽどの理由がない限り、私は賛同しません。投資効率を考えるなら、広さにはシビアになるべきだからです。

 

[図表]ミュージション野方 Cタイプの見取り図
[図表]ミュージション野方 Cタイプの間取り図

 

例えば、あるエリアの限界賃料(入居者が支払えるであろう見込み家賃の上限)が10万円という場合、28㎡と32㎡では㎡賃料効率に14%以上の差がつきます。「広くすれば賃料が上がるのでは?」と疑問に思う方がいるかもしれませんが、入居者が支払える金額には限度があるため、ある程度まで上がると、それ以上は広くしても賃料には反映されにくくなります。私の経験では、その臨界点が28㎡なのです。

 

この意味を総コストとして考えてみましょう。建物の建築費が6億円で、一部屋面積が32㎡、総戸数が50戸の賃貸マンションを建てるとします。これをもし、一部屋28㎡にすると、6億円÷32×28で建物費は5億2500万円となり、7500万円のコストダウンとなります。

 

もう少し細かく見ると、建物の中に含まれる共用設備などの費用は減りませんので、だいたい7500万円の30%にあたる金額を節約できたと仮定すると、2250万円の節約になります。これだけコストダウンをしても、賃料はあまり変わりません。おすすめしませんが浮いた2250万円で別の設備をたくさんつけることもできますから、その違いは大きいといえます。

 

この4㎡の差の話をすると、「細かいですね」と驚かれるのですが、マンション経営はあくまでも投資なのですから、細かいといわれても私はこだわるべきだと思います(*2018年現在ではご入居者様の「ドレス等の衣装が多く、もう一部屋欲しい」、「結婚してもミュージションに住みたいので二人で暮らせる広さが欲しい」などの声に応え40㎡~60㎡の新たなマーケットを創造しています)。

 

特別な設計手法で実現される「遮音性能」

◆ミュージションの価値を追求して増える建築費は5~10%

 

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ミュージションは、遮音に関する建築コストがかかるため、かなり建築費が高くなるのではないか、というご質問もよく受けます。実際のところは、通常の賃貸マンションに比べて5~10%ほど建築費が割高になります。

 

特殊な工事が必要な部分として、まず床があります。ミュージションの床のコンクリートの厚さ(床スラブ厚)は200㎜。コンクリートは比重の高い物質であるため、厚みを増すことで音の伝わりを防ぐ効果があるのです。

 

一般の賃貸マンションを見てみると、ローコストマンションでは、建築基準法ギリギリの80㎜ではいくら何でもひど過ぎるので、120㎜くらいでしょうか。もう少しお金をかけた物件でも150〜180㎜くらいです。150㎜でも音が通りますから、120㎜がどんなものかは容易に予想がつくでしょう。ミュージションはこのコンクリートに徹底的に気を使うため、コストはその分、必要になります。

 

◆部屋を宙に浮かすことで音の伝わりを防ぐ

 

ミュージションでは床のコンクリートスラブを厚くする以外に、床・壁・天井に遮音のための特別な設計手法を取り入れています。

 

具体的にいうと、固体伝播音の伝わりを防ぐために、建物の軀体との接点を極力減らし、部屋が宙に浮いているような状態にするのです。

 

 

各部屋と軀体との隙間には、空気伝播音と呼ばれる音の伝わりをカットするため、吸音材の層や空気層を作ってあります。空気伝播音とは、空気を伝わって届く声や楽器の音そのもののことで、空気からコンクリートを伝わって隣接する部屋に出ると騒音の原因になります。

 

まず、部屋を浮かせることで音の直接的な伝わりを防ぎ、さらに隣戸との間にさまざまな工夫を凝らした二重、三重の遮音設計を仕込むのですから、ある程度の手間とコストはかかります。

 

◆普通というのは〝最低限〟ということ

 

ところで、通常、賃貸マンションの床の厚さは、どのように決められるかご存じでしょうか?

 

答えは、「オーナー次第」なのですが、実際のところ、通常の賃貸マンションのオーナーで、建物のコンクリートを厚くする方は、かなり少数派です。なぜなら、建設会社に「コンクリートの厚さはどうしますか?」と聞かれ、オーナーが「普通でいいよ」となにげなく答えたなら、建設会社は建築基準法等に基づいた最低の数値で工事をすることを選ぶからです。

 

建築費用は限られているのですから、音に関する知識や戦略がなければ、

 

① 問題のない普通のコンクリート厚で最新の設備を豊富につけるマンション

② コンクリートが厚めで最新の設備がないマンション

 

なら、①を選びたくなるのが自然です。そして、目に見えないコンクリートより、設備にお金をかけることを選んだオーナーが、

 

「厳しい時代だから、最新設備は多いほうがいいだろう。マンションのエントランスに、服についた花粉をパッと取ってくれるようなシステムが欲しいなあ」「生ものが宅配便で届いても冷蔵保管できる、インテリジェントロッカーなんてどう?」

 

と、誰かから聞いたような周囲のマンションにはない新しい設備の導入に積極的になったなら、その提案を聞いた建設会社は、無条件で賛成します。彼らは工事代金をたくさん払ってくれるオーナーが大好きですし、設計や企画の段階でオーナーの機嫌を損ね、工事をキャンセルされでもしたら営業成績に響くからです。

そこには、「施主さんのために、投資効率を最大化させるマンションを作ろう」という発想はまったくありません。その結果、パッと見た感じは豪華なのに、住んでみると上の階の足音が聞こえるという〝普通〟の賃貸マンションが誕生するのです。

 

私は、音に対する無神経さは、長期的な賃貸マンション経営では致命的なことだと思っています。

 

見えない構造体にお金をかけるか、目をひく最新の設備にお金をかけるかは、オーナー本人の自由です。しかし、少なくとも私は、お金を投入する際には目先のメリットより、その先にある長いリターンに焦点をあてて賃貸経営を考えています。なぜなら、マンションは「建てて終わり」ではないのですから。

 

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鈴木 雄二

株式会社リブラン代表取締役

 

本連載は、2018年12月12日刊行の書籍『新版 24時間楽器演奏可能マンション「ミュージション」が起こす満室賃貸革命』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

新版 24時間楽器演奏可能マンション「ミュージション」が起こす満室賃貸革命

新版 24時間楽器演奏可能マンション「ミュージション」が起こす満室賃貸革命

鈴木 雄二

幻冬舎メディアコンサルティング

不利な立地も関係なし、しかも相場より3割高い賃料で長く満室経営を実現する。 その秘密は音楽にあった。 人口減少、供給過剰の賃貸マーケットで勝ち続ける新常識を教えます。 新しさにしか建物の価値を見出せない市場を…