東京23区内でも利回りが出づらくなり、郊外や地方物件も空室率上昇の問題が本格化するなど、不動産運用の先行きに不安を持つオーナーは多い。本連載では、株式会社フェイスネットワーク代表取締役社長・蜂谷二郎氏に、長いスパンで見た資産形成の手段としての不動産投資の魅力、そこで勝ち残るためのポイントなどを伺っていく。第3回目のテーマは、 投資用不動産に対する金融機関のスタンス等の現状についてである。

不正発覚で投資用不動産向けの融資は抑制傾向だが…

依然として不動産投資に対する世間の関心は高いものの、すでに激変してしまっているのが資金調達を取り巻く環境だろう。本連載の第1回でお伝えした、不動産業界を震撼させた数々のニュースが大きく影響している(『不動産投資で失敗するオーナーたち…その根本的な要因は何か?』)。

 

 

一連の騒動を受けて、金融庁は実態把握のために全国121の銀行、261の信用金庫、148の信用組合を対象としてヒアリング調査を実施。今年3月にその結果が発表され、収入証明資料などの原本確認を徹底していなかった等、金融機関側の不備が多数判明した。

 

同時に、「投資用不動産向けの融資」に対する金融機関のスタンスが大きく変化したことも浮き彫りになっている。2016年3月期の時点で積極的に応じていると回答した銀行は15%に達していたが、2018年9月期には3%に急減しているのだ(2019年3月28日金融庁発表データより)。

 

もっとも、株式会社フェイスネットワーク代表取締役社長の蜂谷二郎氏は次のように指摘する。

 

株式会社フェイスネットワーク 代表取締役社長・蜂谷二郎氏
株式会社フェイスネットワーク
代表取締役社長・蜂谷二郎氏

「金融庁が厳しく指導していますし、確かに全体的に見れば、投資用不動産向けの融資は抑制される方向にあるでしょう。ただ、その金融機関に所属している融資担当者全員が同じスタンスだということではありません。結局のところは、担当者次第です。長期的なスパンで取り組む資産形成の中で、相続対策のためにも不動産を活用したほうが効果的だというお客さまは少なくありませんし、そのような層に対しては、今でも金融機関は融資に関して積極的な姿勢を示すはずです」

 

資料改ざん等が蔓延っていたことや、金融機関側の確認作業が疎かだったことを踏まえて、すでに収入に関するチェック体制はかなり強化されている。しかし、相応の収入や資産がある人なら、そこまで悲観する必要はなさそうだ。

 

「繰り返しになりますが、融資における審査の内容やその基準は、金融機関や支店、担当者によって大きく異なります。また、同じ金融機関に持ちかけた同じ条件の融資申し込みでも、時期によって受け入れられることもあれば、通らないこともあります。それらを見極めるためにも、私どもは金融機関の融資担当者とコミュニケーションを密に交わし、こちらからの情報提供も含めて、最新の情勢をヒアリングするようにしています」(蜂谷氏)

 

 

「属性」は重視されるが物件の収益力の高さで逆転も⁉

細かいチェック内容や判断基準には多少の違いがあるとはいえ、審査のうえで重視される大きなポイントは共通している。本連載の第1回でも触れたように(『不動産投資で失敗するオーナーたち…その根本的な要因は何か?』)、金融機関が融資の審査を行う際に見ているのは、①物件の収益性(利回り)、②物件の保全性(担保としての価値)、③融資を受ける人の属性(信用力)である。

 

 

このうち、①については物件の購入者も最優先してチェックしているだろうが、融資担当者が注視しているのは表面利回りではなく実質利回りである。しかも、エリアや立地条件、建物の状況などから空室リスクも見定め、安定的にその利回りが期待できるか否かを判断している。

 

②に関しても、物件の良し悪しにより融資担当者の評価が大きく変わってくる。万が一返済が滞り、担保を差し押さえた際に、それが速やかにできるだけ高く売れる優良物件であると判断されれば、審査の際にも高評価が得られる。

 

10年以上にわたって金融機関に籍を置いていた蜂谷氏いわく、残る③を重んじる融資担当者が多いのは、いつの時代もほぼ変わらない傾向だという。士業や開業医のように定年もなく、老後も高収入を見込める人たちの場合、物件の家賃収入に本業の所得を合算して融資の審査を行ってくれるケースもあるという。

 

「ただし、属性重視はあくまで一般論であり、他の条件によってカバーできると担当者が判断すれば、融資を受けられることも少なくありません。物件の収益力が高いことがしっかりと裏づけられれば、収入はさほど多くなくても融資を受けられる可能性があります。また、本人(もしくは親)が他に資産価値の高い不動産を所有していたり、いずれ親から東京都内にある実家を相続する予定であったりするケースでも、担保重視の融資担当者なら応じてくれるかもしれません」(蜂谷氏)

 

 

先々の借り換えも念頭に置いた戦略で臨む

金融機関によって異なるのは、融資に対するスタンスや審査の内容だけにとどまらない。借りる側にとっては最も肝心である金利にも、軽視できない差が生じている。

 

 

金利が低いほうから、政府系、メガバンク、地方銀行、信用金庫・信用組合、ノンバンクといった順番になるだろう。当然、できるだけ低利で資金を調達することがベストである。

 

「基本的に融資のハードル(審査の厳しさ)と、金利水準は反比例の関係にあります。できるだけ政府系やメガバンク等で融資を受けたいところですが、融資が下りなくても諦める必要はありません。とりあえず信用金庫や信用組合で融資を受け、先々で他行への借り換えを図ってみる手も考えられます。物件の収益力が評価され、それに伴って属性の向上(収入の増加)も確認されれば、さらに有利な条件での借り換えも十分可能です」(蜂谷氏)

 

いずれにせよ、物件の収益性というファクターが重きを占めることになる。前回述べたように、地方や中古といった物件の場合、この点で見劣りしてしまうのは否めない。

 

 

取材・文/大西洋平 撮影(人物)/永井浩
※本インタビューは、2019年4月23日に収録したものです。