東京23区内でも利回りが出づらくなり、郊外や地方物件も空室率上昇の問題が本格化するなど、不動産運用の先行きに不安を持つオーナーは多い。本連載では、株式会社フェイスネットワーク代表取締役社長・蜂谷二郎氏に、長いスパンで見た資産形成の手段としての不動産投資の魅力、そこで勝ち残るためのポイントなどを伺っていく。第4回目のテーマは、不動産投資の成功に導く「ビジョン」の明確化についてである。

「何のために不動産投資を始めたいとお考えですか?」

不動産投資で成功を収めた者の陰には、必ず失敗した者の存在がある。いったい、何が明暗を分けているのだろうか?

 

 

失敗する人は出発点から間違えている場合が多い。とにかく物件を買えば、その後は自動的に家賃が入ってくると安直に考え、株券や投資信託を購入するような感覚で資金を投じてしまう。

 

しかし、不動産投資は「賃貸経営」とも呼ばれるように、れっきとした事業(ビジネス)だ。それを通じてどんなことを目指していくのかという「ビジョン」が不可欠となってくる。株式会社フェイスネットワーク代表取締役社長の蜂谷二郎氏は指摘する。

 

株式会社フェイスネットワーク 代表取締役社長・蜂谷二郎氏
株式会社フェイスネットワーク
代表取締役社長・蜂谷二郎氏

「私は金融機関に在籍中、融資担当者として独立開業を目指す数多くのお客さまをサポートしてきました。そして、単に資金を融資するだけにとどまらず、事業プランの策定や開業準備のお手伝いも行ってきました。その結果、お客さまと力を合わせて数々の繁盛店を世に送り出せた一方で、努力の甲斐なく廃業に至ってしまうというケースもありました。その具体的な要因は様々ですが、失敗したお客さまの多くは『独立開業=ゴール』のような感覚を抱いていたような気がします。開業を起点に、そこから将来に向けて「こうなりたい」という自分なりのビジョン(夢)が明確ではなかったのです。不動産投資においても同様で、ビジョンの有無が結果を大きく左右する、と今は確信しています」(蜂谷氏)

 

不動産投資に関心を抱く人は、誰もが家賃という安定的な収益に魅了を感じていることだろう。肝心なのは、それを得ていくことでどのような生活を送りたいのか、という本人の望み(ビジョン)なのである。

 

不動産投資でコンスタントに収益を得ながら将来を見据えてどのような資産形成を行い、それを子どもや孫等の次世代へとどう受け継いでいくのか? 人生を通じたビジョンとシナリオを明確にすることこそ、成功へと結びつく第一歩となる。

 

蜂谷氏は顧客と最初に面談した際に、こんな問いかけをするという。

 

「何のために、不動産投資を始めたいとお考えですか?」

 

「叶えたいと思っていた夢を、不動産投資で実現してみませんか?」

 

ビジネス同様、目的が明確になれば、それに進むための最善策が見えてくる。もちろん、目的は人それぞれであり、それを叶えるための具体的な選択肢も個々に異なるので、蜂谷氏は最初の面談で夢について語ってもらうのだ。

 

 

「建物を建てる=ゴール」の安直な発想が失敗を招く

蜂谷氏のコメントにも出てきた独立開業の話のように、明確なビジョンがなければ「物件購入=ゴール」という感覚に陥りやすい。不動産会社の巧みな営業トークに惑わされている側面もあるが、「建物を建てること」が目的となっているケースは本当に少なくない。

 

 

「土地を所有していれば融資も通りやすく、その場所に賃貸物件を建てれば終わりで、非常に話が早い。しかし、私どもではいわゆる地主のお客さまであっても、すでに所有している土地にそのままマンション建設を提案することはまずありません。賃貸需要を期待できないと判断すれば、その所有地を売却して東京都心で新たな土地を購入することも提案します。より空室リスクが低く、安定した家賃収入を見込める土地を仕入れたうえで、マンションを建設する『事業替え』を行ってもらうわけです」(蜂谷氏)

相続という出口戦略まで念頭に置いたプランニング例

資金を投じた後、賃貸経営という「事業」をどう展開していくのか? その戦略を練るうえでは、客観的かつ総合的な観点から助言できるアドバイザーが必要となる。

 

蜂谷氏率いるフェイスネットワークに、すでに1棟のマンションを所有していた79歳の女性から相談が持ち込まれたことがある。2棟目を建ててキャッシュフローをもっと潤沢にしたいという希望であった。通常「その年齢では融資を受けられないのでは?」と思いがちだが、蜂谷氏はこの相談に応じ、次のような提案を行った。

 

「最初に着手したのは2棟目の融資を引き出すことと、相続対策も視野に入れ、既存の物件の借入れを見直すことでした。お客さまには3人の子どもがいましたので、まずは既存の物件のローンを別の金融機関で借り換え、長男を連帯保証人として返済期間を延長し、しっかりとキャッシュフローが得られるようにしました。そして、2棟目については融資の審査を受けた時点で80歳に達していたので、物件の継承人としてお客さまの次男を連帯保証人につけ、47年で完済のローンを組むことができました」(蜂谷氏)

 

次男は借入れを背負うことになるが、マンションを相続できるため、家賃収入を返済に充てられる。しかも、借入額を相続資産から差し引くことができるので、相続税の軽減にも結びつくのだ。

 

もっとも、フェイスネットワークではそれでもなお対策は不十分だと考えたという。なぜなら、三男への相続対策がなされておらず、将来的に揉め事が発生する可能性があったからだ。そこで、蜂谷氏らは3棟目の所有を提案。こうして3人の子どもへの円満相続の道筋が定まったうえ、その女性の顧客は、現在年間4000万円程度のキャッシュフローを得ているという。

 

顧客のビジョンを明確化し、実行していく。物件を建てることはあくまで入口であり、相続という出口までを念頭に置いたプランニングが、賃貸経営の成功のカギを握っていくのである。

 

 

取材・文/大西洋平 撮影(人物)/永井浩
※本インタビューは、2019年4月23日に収録したものです。