相続税の税務調査についてよく知るためには、「最近の傾向」をチェックしておくことが大切です。そこで、最近の相続税の税務調査ではどのような点に重点を置いているか、またどのような傾向があるのかを整理してみることとしましょう。※ 本記事は、税理士法人レガート代表社員で『相続税の税務調査を完璧に切り抜ける方法』の著者でもある服部誠税理士の書き下ろし記事です。

「名義預貯金」に関しては重点的に調べられる

(1)名義預金とは

 

名義預金とは、名義は配偶者や子供であるけれども、その資金の拠出者は被相続人であり実質的には被相続人のものであると判断される預貯金のことです。最近の税務調査の傾向として、この名義貯金の解明に重点が置かれています。名義だけに拘らず、その預金の真の保有者は誰であるかが調査のポイントになります。名義は家族であっても実質的に被相続人の預貯金と判断されれば、当然に課税財産に含まれて相続税の対象となってきます。

 

(2)名義預金か贈与かの論争

 

相続税の税務調査において、専業主婦の配偶者や無職の子や孫の預貯金が多額にあることが発覚した場合、名義預金ではないかと疑問をもたれる可能性があります。

 

その場合、税務調査の現場では、「名義預金」なのか、「被相続人から贈与されたもの」なのかで論争となることがよくあります。「贈与されたもの」となると相続税が課税できないため、調査官としては当然ですが「名義預金」として処理したいと考えます。しかも、資金の移転時期が7年以上も前のものですと税法上の時効(※)となって、贈与税も課税できないということになります。

 

(※)贈与税に関しては、贈与税の法定申告期限から6年を経過すると課税できない。

 

相続税の「税務調査」の実態と対処方法
~調査官は重加算税をかけたがる~
【9月13日(木)/LIVE配信】

 

贈与契約書などの贈与された事実が明確に証明できるものがあれば良いのですが、そうでない場合には贈与されたものであることの立証が重要になります。

 

(3)名義預金と指摘されないためには

 

名義預金ではなく贈与されたものであると主張する場合には、贈与があった事実を納税者が証明することが必要です。そのためにも、次のような対策は講じておきたいものです。

 

①書面を残しておく

贈与契約書を作成し、その際の署名は当事者(贈与者と受贈者)の直筆で行います。現金の贈与の場合には手渡しではなく銀行口座の振込みで移動させるようにしましょう。誰から誰に移動したかが明確になります。

 

② 贈与された財産は受贈者が管理する

贈与されたお金は受贈者の財産です。従って、贈与後の通帳や印鑑は受贈者が管理するようにしましょう。受贈者が複数いる場合には、銀行印は別々にし、通帳や印鑑は各々が管理します。受贈者がそれらの預貯金を自由に使用できる状況にしておくことが大切です。

 

③贈与税の申告をする

贈与で取得した財産の合計額が年間110万円を超える場合には、受贈者が贈与税の申告と納税を行なう必要があります。受贈者が自ら贈与税の申告・納税をすることによって、受贈者の贈与に関する認識が明確になり、名義預金と誤解されることを回避することができます。

CRSの活用で「海外資産」に係る調査は増加傾向に

相続税の税務調査では、資産運用の国際化に伴い、海外で保有・運用している財産についても注視しています。

 

被相続人や相続人の生活実態から海外資産の運用が想定される場合には、税務調査の対象先として選定される確率が高くなります。

 

そして、海外資産に関連する調査は、今後益々、増加するものと思われます。

 

また、国際的な取り組みである「CRS(コモン・レポーティング・スタンダード):共通報告基準」の活用は、相続税の税務調査においても重要なものとなってきています。

 

そもそもCRSとは、国際的な脱税や租税回避への対処を目的にOECD(経済協力開発機構)が策定したルールで、その内容は、年1回、基準を適用する国同士において、それぞれの国の金融機関に開設された相手国居住者の口座情報を、自動的に交換する仕組みとなっています。

 

例えば日本とシンガポールの二国間でみた場合、シンガポールの居住者が日本の金融機関に開設した口座情報を、日本の税務当局がシンガポールの税務当局に自動的に通知します。反対に、日本の居住者がシンガポールの金融機関に開設した口座情報も、シンガポールの税務当局から自動的に日本の税務当局に送られてくることになります。このような情報交換が、加盟した全ての国の間で行われるわけです。

 

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CRS制度自体は2017年に運用を開始していましたが、日本は2018年から参加しました。日本と同時に開始した国には、シンガポールの他、スイスや香港・マカオ(中国)など、富裕層にとってなじみ深い国々も多数あり、2019年現在、100以上の国・地域がCRSに参加しています。

 

CRSの導入により、定期的に、最新の海外資産の情報が送られることとなります。これらの情報が、今後の税務調査に活用されることは間違いないでしょう。

「生命保険」は保険料負担者に関してチェックが厳しい

相続税の納税資金として活用される重要なものが生命保険です。

 

ただし、生命保険は、契約の仕方によって受け取る保険金の課税体系が異なるため、注意が必要です。そして、相続税の税務調査で生命保険がチェックされるポイントは、“誰が保険料を負担していたか”です。

 

税務では、生命保険に関しては「保険契約者」と「保険料負担者」が存在することを前提としており、「保険料負担者」が生命保険契約上の実質的な財産の保有者と考えています。そのため、相続税の税務調査では生命保険に関しては「保険料負担者」のチェックを慎重に行います。

 

例えば、配偶者や子どもが契約者であったとしても、その保険料を被相続人が負担していたり名義預金(真の預金者は被相続人)から引き落とされていた場合には、その死亡保険金は「みなし相続財産」となって、相続財産に加えることになるので注意が必要です。

「借入金を使った不動産対策」は被相続人の意思を確認

節税対策として、銀行借入をして賃貸マンションを購入したり賃貸アパートを建築したりすることは広く一般的に行われています。借入金の残高はそのまま債務として財産から差し引ける一方、財産となる不動産は相続税評価額を基にして計算するため、通常は取得価額よりも低い価額となります。そのため、「債務」>「財産」という結果になり、ケースによっては大きな相続税の節税効果に繋がります。

 

生前にこのような動きがあった場合における相続税の税務調査では、一連の行為(銀行借入+不動産の購入)が本当に被相続人の意思で行われていたかどうかがポイントになります。例えばマンション購入時やアパート建築時に、被相続人に十分な判断能力がなく、家族が相続税の節税目的のために行ったものと判断されれば、銀行借入と不動産の購入や建築はなかったものとみなして相続税の計算を修正される可能性もあります。

 

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仮に被相続人が元気で本人の意思で実行するとしても、マンションやアパートを購入する場合には空室リスクや借入金の返済なども考慮しなければなりません。節税ばかりでなく賃貸経営という側面からもよく考えて実行することが大切になります。

 

 

服部 誠

税理士法人レガート 代表社員・税理士

 

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    本連載に記載のされているデータおよび各種制度の情報はいずれも、執筆時点(2019年2月)のものであり、今後変更される可能性があります。あらかじめご了承ください。

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