日本の富裕層による「フィリピン」での不動産投資が人気だが、変化のスピードは想像以上に速く、正確かつ最新の投資情報を得るのは難しい。そこで、フィリピンで多様な投資用不動産の開発や取得のために日々奔走している、株式会社ハロハロホーム・エグゼクティブディレクター 家村均氏に、2019年初頭のフィリピン不動産投資の現状について話を伺った。第4回目のテーマは「フィリピンでオフィスビル投資は有効か?」である。

人気エリアのオフィスの空室率は2%台で推移

今回は、フィリピンのオフィス物件事情をご説明します。

 

まず、オフィスの空室率ですが、マカティ、グローバルシティのあるタギッグあたりは、現在2%程度の空室率で推移しています。大きなビルができると、一気に数パーセント数字が動いたりするのですが、平均するとだいたいそんな感じで、需給は非常に逼迫しています。特に、オフィスのなかでもグレードAという最高グレードの物件は、外資系の企業が入居したがるのですが、本当に空きが少なくて、テナントからすると見つけるのが大変という状況です。

 

エリアごとにオフィスの供給量を見ていくと、2019年の予測では、やはりマカティとタギッグ市(グローバルシティ)が多いです。次がベイエリアのあるパサイ市で、ケソンもかなり増えます。ケソンというのは、マニラ首都圏のなかでも北側のエリアで、どちらかというと戸建ての多い住宅街、やや郊外といった感じのところです。

 

 

実は、マカティやグローバルシティなどのエリアは、もう空き地が少なく、新規の開発の余地はあまりありません。あるとすれば再開発ですが、これも開発からまだ日が浅いのであまり行われていません。そのため、2020年以降は、マカティやグローバルシティでは、新規のオフィス供給は減るのではないかと見込まれています。そこで、ケソンのような、マニラ首都圏内の周辺エリアにまでオフィスの開発が広がってきているというのが、供給の現状です。

 

[図表]マニラ首都圏におけるオフィス供給数の推移

 

グローバルシティのオフィス賃料は年率13%で上昇

次にオフィスの賃料ですが、マニラ首都圏内の賃料の推移は以下のようになっています。

 

[図表]マニラ首都圏におけるオフィス賃料の推移

 

2010年から17年までの推移ですが、マカティは800ペソから1500ペソに、グローバルシティは575ペソから1400ペソへと上がっています。年率での平均上昇率はそれぞれ、9%と13%です。上昇の仕方を見ればわかるように、近年になって完全に経済の中心となってから、上昇率が急になっています。

 

国全体の経済成長率は、7%前後で推移してきていますが、人気がある両エリアのオフィス賃料にはプラスアルファのプレミアムが乗っていると考えられます。今後も両エリアでは供給が少ないことから、需給はタイトな状態が続くと思われますので、当面は実質経済成長率プラス数パーセントのプレミアがついた賃料の上昇が続くのではないでしょうか。

堅調に推移する地価にバブルの心配はなし

次はマニラ首都圏の、2016年~2018年までの地価の推移です。全体的に堅調に推移していますが、もともと地価が安く、カジノで土地の需要が急増したベイエリアの上昇率が目立ちます。

 

[図表]マニラ首都圏における地価の推移

 

ここで注意しておきたいのは、ここに「バブル」的な要素はほとんどないということです。第2回でも話したように、フィリピンでは外国人は土地を買うことができません。したがって不動産には、いわゆる国際的な投資マネーはほとんど入ってきていません。あくまで国内の実需による値上がりだということです。

 

賃料や地価の値上がりを見て「もう天井圏で、今後の値上がり余地は少ないのではないか」と考える人がいるかもしれませんが、そんなことはぜんぜんなく、むしろ長期的な上昇の入り口段階だと考えています。

 

将来、フィリピン政府による規制が緩和されて、機関投資家の投資マネーが本格的に入ってくるようになれば、さらなる上昇ドライブがかかると予想しています。

1フロア単位での売買も可能だが、単価の高さがネック

フィリピンのオフィスビル取引に関しては、1棟売りもあります。しかし、先に触れた資本規制の関係で、外国人が直接1棟のビルを買うことは、基本的にできません。現地でのジョイントベンチャーや、長期リースなどを使ったスキームは様々に考えられるのですが、規模感の大きな話となります。

 

一方で、コンドミニアム法は、その名前から住居にだけ適用されるのではないかと思われがちですが、実はオフィスビルにも適用されます。そこで、同法に準拠したオフィスであれば、その40%は外国人が買うことができるので、たとえば10フロアのビルであれば、4フロアだけを外国人向けに売りに出す、といったことができるわけです。

 

日本ではまだ少数派でしょうが、フィリピンではオフィスビルにおいても、フロア単位での区分売買は、ごく一般的に行われています。そのため、一棟を購入するよりは、敷居は低くなります。

 

ただし、そうはいってもワンフロアとなると、それなりの価格になります。ものにもよりますが、ざっくりいって億円単位の投資にはなるでしょう。そして、海外投資であるため、日本の金融機関は基本的に融資をしません。つまり、億円単位のキャッシュを持っている人しか投資できないことになります。

 

この売買単価の高さは、大きなハードルとなることは否めません。逆に、これを超えられる個人、あるいは法人の方であれば、私はフィリピンのオフィス物件投資は、現時点では大変有望だと思っています。

 

 

取材・文/椎原芳貴 撮影/有本真大(人物)
※本インタビューは、2019年1月17日に収録したものです。