日本の富裕層による「フィリピン」での不動産投資が人気だが、変化のスピードは想像以上に速く、正確かつ最新の投資情報を得るのは難しい。そこで、フィリピンで多様な投資用不動産の開発や取得のために日々奔走している、株式会社ハロハロホーム・エグゼクティブディレクター家村均氏に、2019年初頭のフィリピン不動産投資の現状について話を伺った。第2回目のテーマは「成長が続くといえる根拠とは?」である。

フィリピン経済は「成長の初期段階」

前回少し触れた、日本ではフィリピンが過小評価されているのではないかという点ですが、それは日本人が英語を苦手としていることと多少関係があるように思えます。

 

フィリピンはかつてアメリカの植民地だったことから、ほとんどの国民が英語を話せます。しかも、ある程度の学歴があるフィリピン人は、なまりの少ないかなり綺麗な英語を話します。これはフィリピンの本当に大きな強みです。他の非欧米の新興国、たとえばインドなどでも、英語を話せる人は多いのですが、私の経験上ではかなりクセが強いなまりのある人が多いようです。

 

また、フィリピンは植民地時代の名残で、法制度や行政制度などにおいて、基本的にアメリカに似た制度が採用されています。特に英米系の企業にはなじみやすいものとなっています。

 

それらの理由から、世界中の一流企業がこぞって、バックオフィス業務やコールセンター業務の拠点をフィリピンに移しています。いわゆる、IT-BPM(Business Process Management)産業、あるいはBPO(Business Process Outsourcing)産業です。フィリピンの商業エリアであるマカティやボニフォシオ・グローバル・シティには、IBMやGoogle、JPモルガン、HSBCなど、世界中の一流企業のオフィスがあり、多くのフィリピン人が働いています。IT-BPM産業で、フィリピンは2010年にはインドを抜き、いまや世界一の座にあります。

 

もちろん、先進諸国と比べれば人件費が安かったり、優遇税制が採用されていたりといった理由もありますが、それは他の多くの国でも当てはまります。そのなかで、フィリピンが多くの一流企業の進出拠点として選ばれているのは、言葉の面や法制度の面が大きいのでしょう。多くの日本人が思っている以上に、フィリピン経済の実力は、国際的に高く評価されているのです。

 

 

それを具体的に数字で示しているのが、フィリピンへの海外直接投資の伸びです。

 

[図表]

世界銀行
出典:世界銀行

 

この数字(2018年は第1四半期のみ)を見てもわかるように、近年において直接投資が急増しています。一方で、直接投資が2桁で伸びていることを見て、むしろこれ以上の「伸びしろ」がないのではないか、すでに「天井に近い」のではないかという危惧を感じる方がいるかもしれません。もちろん、どんな国の経済でも永久に右肩上がりを続けることはあり得ません。しかしフィリピンに限っていえば、まだ「成長の初期段階」というのが、私の実感です。

 

その理由として、機関投資家やヘッジファンドなどの、国際的かつ大規模な「投資マネー」が、まだほとんど流入してきていないことが挙げられます。これだけ成長が有望視されていながら投資マネーの流入が少ないのは、さまざまな規制措置が採られているからです。

 

まず資本の流入規制があります。フィリピンでは、資本規制を設ける産業のネガティブリストを作成し、指定された多くの産業では、外国人・外国企業による現地法人への出資比率が規制されています。また、土地に関しても、フィリピンの土地を所有できるのは、フィリピン人や、国内資本が60%以上の株式会社などに限られており、外国人・外国企業が土地を所有することは禁じられています(長期リースは可能です)。一般的に新興国にはありがちですが、そのようにして、国内の産業や土地を強く保護する姿勢が採られています。

 

そのため、急増している海外直接投資の多くは、実業を行っている企業が実需で投資しているものなのです。これは、不動産市場も同様です。そのため、私が見るところでは、バブル的な状況はまったく生じておらず、極めて健全な成長が続いています。

フィリピンGDPの1割弱を支える「OFW」とは?

株式会社ハロハロホーム エグゼクティブディレクター 家村均氏
株式会社ハロハロホーム
エグゼクティブディレクター 家村均氏

BPM産業が勃興するまで、フィリピン経済を主に支えていたのは、OFW(Overseas Filipino Workers:海外で働くフィリピン人)からの送金でした。俗ないい方をすれば、いわゆる「海外出稼ぎ」です。

 

海外出稼ぎと聞くと、日本では、ハウスキーパーや介護職といったイメージが強いかもしれませんが、必ずしもそういった仕事に限らず、欧米では医師や弁護士など高所得な職業に就くフィリピン人もたくさんいます。そういった人たちが、本国の家族に多額な送金をしているのです。そのため、BPM産業が急成長した現在でも、金額ベースではOFW送金による資金流入のほうが多額で、30億ドル弱の規模があります。GDPの1割弱が海外からの送金で成り立っているのですから、非常に大きな額です。

 

そのベースには、家族をとても大切にするというフィリピンの国民性があります。だからこそ、海外から本国にいる家族のために多額の送金をするわけです。その送金されたお金が何に使われているかというと、同じように家族を大切にする国民性から「半分程度が不動産投資に使われている」といわれています。

 

フィリピンでは、3世代、4世代が同じ家に住んでいたり、親戚を含めて一緒に暮らしていたりする大家族がめずらしくありません。そういう家族に海外から送金されたお金がある程度たまると、じゃあ、もう少し大きい家に引っ越そうとか、今度、甥っ子が結婚するから家を買ってやろうとか、そういうふうに家族の基盤となる家に投資をするわけです。つまり不動産投資といっても、ほとんど実需です。

 

先も述べましたが、フィリピンでは土地を外国人が所有することはできません。ただし「コンドミニアム法」という法律があり、この法律に則って建てられた物件の場合、全戸数のうち40%までは外国人が購入することができます。日本からコンドミニアム投資をする場合は、このコンドミニアム法に則った物件となります。

 

逆にいうと、60%以上は必ずフィリピン人が購入しています。そして、その大部分が、上に述べたような実需により購入されています。そこから「不動産市況は非常に底堅い」という結論が導かれます。

 

海外からの投資資金は、なにか変調があればすぐに引いていきます。ところが、フィリピンの不動産を支えているのは、OFWの送金であり、さらに家族思いというフィリピン人の国民性であるため、非常に底堅いのです。国民性はそう簡単には変わりません。

 

もちろん、一時的な需給要因による市況の波というのは、当然ありますが、長期的に見ればフィリピン不動産市況は堅調に推移する基盤があると考えられます。

 

 

取材・文/椎原芳貴 撮影/有本真大(人物)
※本インタビューは、2019年1月17日に収録したものです。