設計・有限会社Kaデザイン

近年、土地活用や資産形成の手段として注目を集めている「賃貸併用住宅」。本連載では、建築家を含む専門家や実際のオーナーにお話を伺い、その魅力や活用時の留意点などを探っていく。第6回目は、前回に引き続き、建築家の中尾英己氏(有限会社中尾英己建築設計事務所)と、山本健太郎氏(有限会社Kaデザイン)のお二人に、収益を生む賃貸併用住宅を建てる秘訣などを伺った。

収益物件である以上、無駄なコストは徹底的に排除する

――賃貸併用住宅では、プライバシーを気にされる方が多いと聞きますが、お二人が設計をされる上で、配慮のようなものはありますか?

 

建築家・山本健太郎
建築家・山本健太郎 氏

山本 入居者の方との接触を気になさる方は多いのでその点はやはり気を使いますね。入居者がオーナー住宅に直接行けないようにするのは基本です。たとえば上下階の別であれば、エレベータに暗証番号を設定して、入力しないとオーナー住居のフロアには停まらないようにするとか。隣並びなら、入り口から分けて動線を別にするのはもちろん、門をつけてロックするなどします。オーナーにとっては長く住む家ですから、余計なストレスが生じないように配慮します。

 

中尾 土地面積に余裕があるなら、オーナー住宅と賃貸住宅との動線をしっかり分けることも検討します。

 

――賃貸併用住宅の場合、建築コストについては、通常の一戸建てと比較して、ミニマムでどれくらいアップするのでしょうか?

 

中尾 ミニマムなら、たとえば木造住宅で、賃貸用に1戸を追加するとなると面積にもよりますが、だいたい1000万円弱といったところでしょうか。

 

山本 コスト面では、構造設計の段階から最後まで、その必然性を意識します。たとえば、ハネ出しが多い構造だとコストが上がります。そうしないとこの物件が成り立たないという必然性があるならいいのですが、「カッコいいからやってしまいました」みたいな物件も、たまに見られます(笑)。それは設計者の自己満足で、無駄なコストです。収益物件であれば、特にそういう無駄は排除し、しかも美しく、基本的な部分は押さえたものを作ることが絶対条件です。

 

中尾 オーナーさんのほうが、自分の好みにこだわり過ぎてしまうケースもありますね。個人住宅なら、「そこにこだわるのなら、あと◯◯万円かかります」という話で決めてもらえばいいのですが、収益がからむと、そういうわけにはいきません。

 

山本 「この設備が好きなので、お金が掛かってもいいからこれにしてほしい」とオーナー様が要望なさったとき、その分をプラスして賃料を上げることができるのかを判断することも必要です。オーナー様の言う通りに作っていては、収益事業としてはダメになることも多い。だから、設計者は建築の目的を考え、その設備やそのコストが適切なのかということをきちんと判断して、「利回りが下がるから、それはやめたほうがいいですよ」と適切なアドバイスができなければなりません。

 

建築家・中尾英己 氏
建築家・中尾英己 氏

中尾 その逆のパターンもありますね。たとえば、オーナー様が安い設備をご要望されるケースです。後々のメンテナンスを考えたら、多少値段が高くても、もっといい部材を使っておいたほうが良いことも多い。修繕などのランニングコストまで含めると、初期費用を抑えて、後々損するならここはコストをかけましょうとアドバイスします。

 

山本 中尾さんがおっしゃる通り、我々は10年後、20年後の大規模修繕まで見据えたコスト計算をし、設計します。一例ですが、ぼくは床材だけはなるべく無垢材の良いものを使うようにします。実際に、昔設計した建物が大規模修繕の時期を迎えていますが、床を張り替える必要はありません。安物が劣化して、すべての張り替えが必要となると、修繕費がとんでもなく高くつく。そういうことも、きちんとオーナーさんに説明して、ご理解いただきます。

 

収益物件は「事業」という意識で取り組むべき

――最後に、これから賃貸併用住宅を検討なさるオーナー様へのアドバイスなどがあればお願いします。

 

中尾 まずは、なんのために賃貸併用住宅を計画するのかという目的、つまり、「収益なのか相続なのか、年金の足しなのか」といったことを、しっかり考えることが重要です。どんな建物がいい建物なのかは、結局、目的によって変わってくるからです。

 

山本 そのこととも関連しますが、たとえミニマムの規模だとしても、収益物件の場合は、「事業」という意識で取り組んでいただくこともポイントです。「自分はなんにもしないで不労所得だけ得たい」という考えだと、失敗する可能性が高くなります。

 

中尾 とは言え、多くの方は、最初から明確な目的意識を持って取り組んでいるわけではないでしょう。むしろ、ちょっと興味があるとか、よくわからないけど、良さそうならやってみたいというくらいの、あいまいな気持ちからスタートするのが普通だと思います。そんな方にこそ、私たち建築家に相談していただきたいですね。

 

私たちは設計の専門家ですが、お客様にとっては家づくりを含めたプロジェクトを一緒に進めるパートナーでもあります。だから、まずは相性の合うパートナーを探すつもりで、お気軽にご相談にいらしてください。きっと、「建築家って思っていたより、敷居が高くないんだな」と感じていただけると思います。

 

 

取材・文/椎原芳貴 撮影/海保竜平 ※本インタビューは、2018年6月7日に収録したものです。